燃える闘魂 ラストスタンド(2021年・NHK)
NHK-BS1
元気があれば何でもできる
元気がなくても何とかする
燃える闘魂、アントニオ猪木はかつて僕の憬れだった。僕は高校生の頃、藤波辰巳(現・藤波辰爾)のアクロバティックなプロレスに魅せられて、新日本プロレスを見るようになり、結果的に、「主役」のアントニオ猪木に惹かれるようになった。
タイガー・ジェット・シンやスタン・ハンセンとの死闘、異種格闘技戦なども夢中で見ていた口だが、一人暮らしを始めてからテレビがなくなったために、プロレスのテレビ観戦が完全に途絶えてしまい、結果的にその後興味が大幅に後退していったため、プロレスに対してやや醒めた目で見られるようになった。
それから20年以上経って、新日本プロレスに所属していたレフェリー、ミスター高橋が暴露本(
『流血の魔術 最強の演技』)を出して、新日本プロレスの裏をばらしてしまったため、僕自身は、アントニオ猪木に対してかなり冷ややかな見方をするようになった。それ以前から、猪木氏のスタンドプレーには少々呆れ気味だったこともある。したがって、猪木氏に対しては、高校生のときのような純朴な憧れはまったくない。ただ「1・2・3、ダー」みたいなパフォーマンスは、みっともないからやめたらいいのにと見るたびに感じている口ではあった。
その燃える闘魂、アントニオ猪木が、今は難病、心アミロイドーシスで苦しんでいるという。それでも今の姿をファンに見せようと、弱った姿でマスコミに登場している。それを含めて「アントニオ猪木」なのだと、この番組にインタビューで出演していた古舘伊知郎が語っていた。というわけで、この番組は、入院時から退院後のアントニオ猪木の姿を追うドキュメンタリーである。途中、関係者がインタビューで登場し、現在や過去の猪木氏の状況について語るという場面が挟まれている。
印象的だったシーンは、猪木氏が、リハビリのために平行棒に掴まって軽いスクワットを20回程度やってフラフラになっていたあたりで、かつてヒンズースクワットを数千回こなしていたという勇姿とは大違いで、これは素直に驚いた。ただ、病気をすれば誰でもこうなる可能性があるわけで、それは、かつてスーパースターだったアスリートにも当てはまる。そういう姿を人に見せるのは、本人にとっては屈辱かも知れないが、一般市民にとっては有意義と言える。画面から窺われる猪木氏は、かつてのような独断的なワガママさも感じられず、人間的に非常に丸くなっているという印象で、病気が彼を良い方に変えたという見方もできる。
猪木氏の今の姿を見ると、人間、何があるかわからない、今をしっかり生きておかなければならないということを考えさせられる。そういう点で有意義なドキュメンタリーであった。何よりテレビ朝日でなくNHKでこれをやったというのがすごい。これも時代だ。
★★★参考:
竹林軒出張所『完本 1976年のアントニオ猪木(本)』竹林軒出張所『アリ対猪木 アメリカから見た世界格闘史の特異点(本)』竹林軒出張所『蘇る伝説の死闘 猪木vsアリ(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ブッチャーとシン』竹林軒出張所『1993年の女子プロレス(本)』