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竹林軒出張所

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2021年ベスト

 今年も恒例のベストです。例年どおり「僕が今年見た」という基準であるため、各作品が発表された年もまちまちで、他の人にとってはまったく何の意味もなさないかも知れませんが、個人的な総括ですんで、そのあたりご理解ください。
 今年は見たドラマが少なかったため、ドラマ部門はありません。映画もドキュメンタリーも見たものが少なかったんで、全体的にこぢんまりしています。
(リンクはすべて過去の記事)

今年見た映画ベスト3(22本)
1. 『去年マリエンバートで』
2. 『ウエストワールド』
3. 『れいわ一揆』

2021年ベスト_b0189364_12412855.jpg 映画を2時間見るというのが苦痛になってきて、見続けることがなかなかできない。途中で他のことをやりたくなってしまったりして、集中力が続かない。劇場で見ればまた少し違うんだろうが、今みたいに映像が手軽になってしまうと、便利な半面、消費財みたいな扱いになってしまう。心情的にもそうで、そのために飽きるんではないかと勝手に分析している。今回、『去年マリエンバートで』は、時間を確保し場を整えた上でしっかり見たため、印象が強かったのかも知れない。もちろん、展開が遅く内容がわかりにくいため、ずっと集中していたなどということはなく、適当に中断を入れながら見たのだった。これだと今の映像のお手軽さをかえって活用できるというものである。ある程度持続してみられたのは、見るのが2回目だったせいもある。初見だとこうは行かなかっただろう、この映画の場合。
 『ウエストワールド』も見るのは2回目だったが、こちらも途中、何度も中断を入れながら見ている。途中からは引きこまれ、最後まで一気呵成に見るわけだが、映像に対する集中力がなくなっていることを実感する。
 『れいわ一揆』は、原一男の作品で、これなんかは割合映像がダラダラ流れる感じのドキュメンタリーでしかも(上映時間4時間と)結構長いんだが、こちらは最後までほぼ通しで見ることができた。それほどドラマチックな展開があるわけではないが、原一男の豪腕のせいなんだろうか。内容は、2019年の参議院議員選挙でのれいわ新選組の活動を追ったもので、それほど面白そうな素材でもないんだが、見ていて、いろいろと感じるところがあった。そのあたりがれいわの魅力なのかも知れない。ときに、原一男はなんでも今度6時間超のドキュメンタリー(『水俣曼荼羅』)を公開する(した?)らしいが、『れいわ一揆』も僕は最後まで見られたことだし、原一男作品なら意外に飽きずに見られるんじゃないかなどと考えてしまう。

今年読んだ本ベスト5(80冊)
1. 『沢村忠に真空を飛ばせた男』
2. 『学校の「当たり前」をやめた。』
3. 『ワクチン副作用の恐怖』
4. 『スマホ脳』
5. 『大学病院が患者を死なせるとき』
番外:『古代史の十字路』

2021年ベスト_b0189364_10544710.jpg 今年は、時節柄、医療系の本、とくにコロナ関連の本を集中的に読まざるを得なかった。今年、コロナ騒動の異常さを告発した本が多数出されたのは大変有意義で、声が大きい人々の言動に惑わされないよう警告する論調が出版界に現れたのは、出版界の役割がまだまだ終わっていないことを示す格好の事例となった。この点、行政の忖度ばかりして右へ倣えの報道ばかりしてきた放送業界と大きな違いだ。一方で、日本の放送業界の末期症状が、今回の騒ぎで明らかになってしまったわけだ。それはともかく僕自身は、コロナ騒動の真相を知るために(紹介しなかったものも含めて)今年10冊以上関連本を読んだ(中にはひどいものもあった)が、コロナ騒動関連の本としては、『コロナ自粛の大罪』『新型コロナとワクチンのひみつ』がよくまとまっていてわかりやすかった。あわせて3.の『ワクチン副作用の恐怖』を読めば、今回の騒動、それから日本の医学界に潜んでいる問題点についてかなり理解できるようになる。ワクチンを接種して(「副反応」という名前の)副作用に苦しんだ人を含め、現状を知るために読んでみてはいかがだろう。
 コロナはとりあえず置いといて、今年の総括である。1.の『沢村忠に真空を飛ばせた男』は、プロモーターの野口修を扱った異色のノンフィクションだが、野口を通じて、60年代から70年代の日本の興行界の様子を描きだした点が見事の一言。特に同時代を生きた人々には、あの時代の種明かしみたいな話が大量に出てきて感心することしきりではないかと思う。取材もかなり綿密に行っているようで、ノンフィクションとしての重厚さもある。
 2.の『学校の「当たり前」をやめた。』は、日本の公立中学校(千代田区立麹町中学校)で改革を成し遂げた校長が、自身の仕事とその背景となる思想を紹介した本だが、とにかくすごいとしか言いようがない。日本の閉鎖的な教育環境でもこれだけの改革ができるということに驚くと同時に、問題解決のための「ベストプラクティス」として読んでも参考になることが多い。著者の真摯さが伝わってくるのもポイントが高い。
2021年ベスト_b0189364_11535329.jpg 3.の『ワクチン副作用の恐怖』は、感染症に対して効果的とされているワクチンが、実は相当な問題を抱えているということを紹介する本。医学書ではなく一般向けの読みやすい本だが、我々がいかに状況を知らないまま、ワクチン接種を行ってきたか(あるいは子どもたちに行わせてきたか)がわかり戦慄する。ワクチンが決して感染症に対する特効薬ではなく、慎重に向き合うべきものであることがよくわかる。あるワクチンのせいでナルコレプシーや筋萎縮症が増えたという論文も紹介されていて、合点が行くことも多かった。5.の『大学病院が患者を死なせるとき』も同じ著者の自伝的な本だが、著者が日本の医療の問題点を告発し始めた、その原点が明らかにされている。読者も、当時の著者の視点で医療の問題に気付くことができるという好著である。近藤誠の著書は、今年かなり読んでいるが、外れはかなり少なく、どの本を読んでも得るところが多い。
 4.の『スマホ脳』は今年のベストセラーだったが、ベストセラーでありながら、しかも新潮新書でありながら、なかなかの快著であった。現代のスマホ依存現象を自然人類学的に分析するというアプローチで、必ずしもすべての議論が論証されているわけではないが、説得力はある。少なくともこれを読んで、現在のスマホ現象あるいは買物依存などについて理解すれば、自らがそういう異常さに陥ることは避けられるのではないかと思う。現代人であれば、知っておきたい視点であると思う。
 番外は、古田武彦の『古代史の十字路』。今年は古田武彦の本をまとめて読み直し、改めて感心することしきりで、どれもトップクラスの面白さだったが、今さら紹介するのもいかがと思い、ここには入れなかった。番外として取り上げたのは、中でも意外性がきわめて高かった『古代史の十字路』で、『万葉集』の和歌を多元史観から解釈し直すという試みである。それまで何だかよくわからなかった退屈な和歌がとたんに輝きを増すのが驚きであった。この古田説が歴史学、万葉学で定番になる日がいつ来るかわからないが、決してないがしろにできない説である。広く受け入れられてほしい論なのだが、残念ながら現在は、古田武彦の本は、高価な選集でしか手に入らなくなってしまった。古田説が定説になるまで、まだまだかなり時間がかかりそうである。

今年見たドキュメンタリー・ベスト5(34本)
1. 『失われた色を求めて』
2. 『さよならテレビ』
3. 『聖職のゆくえ』
4. 『科学者 野口英世』
5. 『おじさん、ありがとう』

2021年ベスト_b0189364_22013256.jpg 1.の『失われた色を求めて』は、古代の染色技法を現代に復活させた吉岡幸雄氏の仕事を紹介するドキュメンタリー。内容は地味だが、こういう映像はアーカイブとして後代に残すべき作品である。こういう作品が、NHK-BSのプレミアムカフェで放送されたのは歓迎すべきことで、NHKは、今後もぜひ、過去の優れたドキュメンタリー作品を紹介していってほしいと思う。今『NHK特集』のアーカイブを毎週放送していて、かつて見て感心した作品が目白押しである。録画はしているがまだ見られていない。いずれ時間を作って見たいと思っている。これも地味だが大変素晴らしい企画である。
 2.の『さよならテレビ』は、お馴染み東海テレビのドキュメンタリーで、劇場公開もされた作品。テレビ放送や報道のあり方を内部から捉え、放送の問題がどこにあるかを照らし出す作品。放送局が、現在のように理念そっちのけで競争原理優先で進んだ結果が現状であることを内部の人間が映し出しているのが画期的である。今後は、競争原理優先で進められてきた日本の教育界にも同様の問題が起こるんではないかと考えてしまった。
 3.の『聖職のゆくえ』は、教員の世界で労働環境が悪化していることを、これも教員への密着取材を通じて明らかにしていく。こちらの問題の根本原因は政治的な理由から来たものだが、誰か(ここでは教員)が犠牲になっている状況は決して持続可能ではなく、ここで破綻してしまうと、その影響はかなり広範に及ぶことになる。そういう問題を明らかにしたという点で価値が高い。
 4.の『科学者 野口英世』は『フランケンシュタインの誘惑』という番組の1回分だが、「偉人」野口英世の真相を伝えるという点で「目からウロコ」の番組だった。この番組でいつもは不要と思えるような専門家の談話も、この回では非常に活きていて有効だった。
 5..の『おじさん、ありがとう』は、不良少年・少女を手弁当で更正させてきた愛知県の寺の住職の話。これまで長年にかけて密着取材してきた(報道番組内で特集として紹介されてきた)内容を、ドキュメンタリーの形で1本にまとめた作品。長時間に渡る取材が活きた感動的な作品で、第36回ATP賞テレビグランプリを受賞した。ちなみに21年にも、この続編がいろいろな賞を授賞している。

 というところで、今年も終了です。今年も1年、お世話になりました。また来年もときどき立ち寄ってやってください。
 ではよいお年をお迎えください。

参考:
竹林軒出張所『2009年ベスト』
竹林軒出張所『2010年ベスト』
竹林軒出張所『2011年ベスト(映画、ドラマ編)』
竹林軒出張所『2011年ベスト(本、ドキュメンタリー編)』
竹林軒出張所『原発を知るための本、ドキュメンタリー2011年版』
竹林軒出張所『2012年ベスト』
竹林軒出張所『2013年ベスト』
竹林軒出張所『2014年ベスト』
竹林軒出張所『2015年ベスト』
竹林軒出張所『2016年ベスト』
竹林軒出張所『2017年ベスト』
竹林軒出張所『2018年ベスト』
竹林軒出張所『2019年ベスト』
竹林軒出張所『2020年ベスト』
竹林軒出張所『2022年ベスト』
竹林軒出張所『2023年ベスト』

by chikurinken | 2021-12-31 07:09 | ベスト
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