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竹林軒出張所

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『未成年の性被害』(ドキュメンタリー)

なかったことに、したかった。未成年の性被害①
なかったことに、できない。性被害② 回復への道は
(2019年・日本テレビ)
NHK-BSプレミアム ザ・ベストテレビ2020

ひどい話だがこれが現実

『未成年の性被害』(ドキュメンタリー)_b0189364_12274995.jpg 小・中・高校時代に性被害を受け、心に大きな傷を負った女性たちを紹介するドキュメンタリー。
 数人の元被害者が登場して被害当時と現在の状況を語る。教師や親から性暴力(暴行)を繰り返し受け、それを当時誰にも訴えることができなかった……、その数年後に身内に訴えたところ、むしろ性被害を受けたことに対して非難された……など、誰もが共通の経験を抱えている。しかもその後、自傷行為や自己否定などで人生が無茶苦茶になったという点でも共通している。
 このドキュメンタリーシリーズは、そういった実態を赤裸々に紹介する作品で、被害者自身の口から語られる内容には相当な重みがある。当事者の中には顔を出している人もいて、その勇気に驚かされるが、顔をモザイクで隠している人の中も顔出しOKと言っていた人がいるらしい。ただ現実に顔を出すと、一部の心ない人々によるバッシング、いわゆる二次被害を受ける可能性があるため、慎重にならざるを得なかったと製作者が語っていたのが印象的だった(『ザ・ベストテレビ2020』の製作者インタビューで)。彼女たちが顔出しに同意していたのも、自分のような被害者を出したくないから、そして現在自分が受けている苦しみを人々に伝えたかったからという動機である。
 多くの被害者が苦しみを抱えながらそれを解消できずにいるが、被害者の会などで共通の苦しみを語ることで改善する人もいる……というのが唯一の救いか。子どもの性被害の実態を伝える媒体はまだまだ少なく、世間の理解も足りていないのが現状だが、こういった番組が脚光を浴びることで世の中が少しずつ変わっていけば良いと思う。
 ちなみにほとんどの加害者は、多くのケースで時効が成立しているため、罪に問われることがない。そもそも多くの被害者が被害を訴えてこなかったため、こういう性加害の実態が明らかになっていないわけで、そうすると、変態男たちによる性加害は別の女性に対してその後も繰り返されている可能性が高いということになる。それを考えると、このような現状を告発するドキュメンタリーは大変重要で有意義である。とは言っても元々の放送は深夜の放送(『NNNドキュメント』枠)だったために、多くの人の目に触れることもあまりなかったかも知れない。そのあたりが、今の放送業界の持つ限界と言えるのか。
第46回放送文化基金賞テレビドキュメンタリー番組部門
最優秀賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『スクールセクハラ(本)』
竹林軒出張所『裁判百年史ものがたり(本)』
竹林軒出張所『スポーツ界 性的虐待の闇(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ブラックボックス(本)』
竹林軒出張所『ハリウッド発 #MeToo(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『勇気ある証言者 ボスニア(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『SNS暴力(本)』
竹林軒出張所『昭和46年 大久保清の犯罪(ドラマ)』

by chikurinken | 2021-11-01 08:35 | ドキュメンタリー
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