パンデミック 揺れる民主主義
ジェニファーは議事堂へ向かった
(2021年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集
SNSが市民階級を分裂させた 前回のアメリカ大統領選挙後に発生した議会襲撃事件を、中流層の没落、貧困と絡めて描くドキュメンタリーである。それについてはタイトル通りだが、タイトルの内容から、僕はてっきり、それまでリベラルだった「ジェニファー」が行き場を無くし、保守思想に染まって議会襲撃事件に参加した、つまりそういった思想的地殻変動が米国内で起こっているのかと勘違いしてしまった。そういう点では、タイトルで少し騙された感がある。ここに登場する「ジェニファー」は、元々は政治に無関心だったが、トランプが現れた頃から白人至上主義的な政治スタンスを露骨に周囲に表すようになった人で、言ってみれば元々そういう素養があってトランプの主張に惹かれた人である。それが、あの事件前にトランプに煽られて、議会前でデモをするためにはるばるワシントンに赴いたという人だった。したがって、現在の経済状況から考え方を180度変えたというような例ではまったくなかった。
その他に、Qアノン(極右の陰謀論)に染まってしまった市民や、父親が白人至上主義、あるいはトランプ主義と言っても良いかも知れないが、それに染まってしまい、娘と断絶してしまった例などが紹介される。総じて、昨今NHKでよく紹介されているアメリカ保守事情みたいな内容で、目新しさはそれほどなかった。ただ、その原因がSNSにあることを指摘していた点は、やや目新しい見方かなと思う。実際、ここに登場していた人々については、SNSの影響が色濃いということがわかる。SNS自体が、(従来は公にできなかったような)極端な考え方を広め、同じような考え方の人々を寄せ集める役割を立派に果たしており、それに対してSNSの運営企業は何ら手立てを施していないことが、このドキュメンタリーで告発されている。要は、現代人がSNSのシステムに対して十分な対処能力を持っておらず、それを取り巻く環境も正常に機能していないにもかかわらず、それが野放しになっているのが現状であるというのだ。したがって現代人は、SNSに接する際に、細心の注意を払わなければならないというような主張が展開されていく。
こういったSNSの急激な普及もあって、アメリカでは、今や市民は政治スタンスによって二極分化してしまい、互いの間で政治の話が簡単にできなくなってしまったらしい。かつては一部のアメリカ人から、日本では民間で政治の話ができないがこれは大変由々しい事態だ……などと言われたものだったが、今やお互い様になってしまったわけである。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『嘘と政治と民主主義(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『華氏119(映画)』竹林軒出張所『“強欲時代”のスーパースター(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ドナルド・トランプのおかしな世界(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『E・トッドが語るトランプショック(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『“フェイクニュース”を阻止せよ(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『NYタイムズの100日間(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『SNS暴力(本)』