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竹林軒出張所

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『断崖』(映画)

断崖(1941年・米)
監督:アルフレッド・ヒッチコック
原作:フランシス・アイルズ
脚本:サムソン・ラファエルソン、アルマ・レヴィル、ジョーン・ハリソン
音楽:フランツ・ワックスマン
出演:ジョーン・フォンテイン、ケーリー・グラント、ナイジェル・ブルース、セドリック・ハードウィック、イザベル・ジーンズ

悪党男と良家の子女のサスペンス

ネタバレ注意!

『断崖』(映画)_b0189364_12271900.jpg 戦前のヒッチコックのサスペンス作品。
 良家の子女リナ(ジョーン・フォンテイン)が、プレイボーイのジョニー(ケーリー・グラント)と結婚したものの、この男が放蕩者で、莫大な借金を抱えている上、贅沢な生活を好むときている。その上少し図々しい。リナは愛する彼にまっとうに生きて欲しいと願うが、ジョニーの方は、折角就いた仕事もすぐに辞めてしまい、それどころかその会社の金を横領してしまう始末。あげくに不動産で一旗揚げようと投機話を友人に持ちかけたりする。しかもその友人がジョニーと一緒のときに不慮の事故で死んでしまう。警察も事情聴取のために自宅にやって来る有様で、どうやらその死には保険金が絡んでいたようである。こういうことが重なり、リナは徐々にジョニーに対してそら恐ろしさを感じ始める。次は私が犠牲になる番という恐怖感が徐々に募っていくのである。
 身近な人間に対する恐怖感が徐々に募っていくあたりの表現はさすがのヒッチコックで、サスペンス映画としては上出来ではあるが、ジョニーがあまりにひどい男なんで、見ていて少々つらくなる(そのため僕は途中何度も見るのをやめた)。ストーリーは、同じヒッチコック作品の『疑惑の影』を思い出させるもので、サスペンスの要素、たたみかけるような演出は『レベッカ』を髣髴させる。ちなみに『レベッカ』も主演はジョーン・フォンテインで、『レベッカ』と本作がフォンテインの代表作と言える。そう言えば、『ガス燈』も少し似たようなストーリーで、しかも主演女優が迫真の演技だったという点で共通している。こういうストーリーは当時の流行りだったわけではないだろうが、どれも名作として残っているところを見ると、こういう作品には、演じる側、演出する側としての腕の見せ所が多かったのかも知れない。
 この映画も出来は良いと思うが、先ほども描いたように、主人公の男があまりにひどいヤツで、ちょっと見ていられなくなった。日本公開当時は高く評価されたようで、1947年のキネマ旬報ベスト・テンで外国映画1位にランキングされている。僕もキネ旬1位の映画という評判を聞いて、数十年前この映画をなんとか見たわけだが(今と違ってなかなか見たい映画を見ることはできなかった)、見終わった後、正直言ってそれほどのものかと感じたのを憶えている。今回も似たような感想で、「よくできてはいるが、そんなに?」という感触である。僕は『レベッカ』や『ガス燈』の方がはるかにできが良いと思っているんだが、『ガス燈』はこの年のキネ旬ランキングで9位、『レベッカ』に至ってはベストテンに入ってすらいない。もちろんこういうものは、当時の評判や時代的な雰囲気なんかが作用しているわけだが、要するに賞なんてものはその程度のものと考えておくのが良いという結論に達するわけだ。見た人が見た人なりの評価をすれば良いのである。
第14回アカデミー賞主演女優賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『巨匠たちの肖像 ヒッチコック(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『レベッカ(映画)』
竹林軒出張所『北北西に進路を取れ(映画)』
竹林軒出張所『知りすぎていた男(映画)』
竹林軒出張所『裏窓(映画)』
竹林軒出張所『めまい(映画)』
竹林軒出張所『ロープ(映画)』
竹林軒出張所『泥棒成金(映画)』
竹林軒出張所『サイコ(映画)』
竹林軒出張所『白い恐怖(映画)』
竹林軒出張所『マーニー(映画)』
竹林軒出張所『バルカン超特急(映画)』
竹林軒出張所『海外特派員(映画)』
竹林軒出張所『汚名(映画)』
竹林軒出張所『ガス燈(映画)』

by chikurinken | 2021-07-30 07:27 | 映画
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