子どもたちの階級闘争
ブロークン・ブリテンの無料託児所から
ブレイディみかこ著
みすず書房
格差の現状を訴えるパンクなエッセイ
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の著者、ブレイディみかこが、英国の託児所勤務時代の出来事や思いについて綴った本。著者は本書で新潮ドキュメント賞を受賞しているため、おそらく注目されるきっかけになった書ではないかと思われる。実際、何らかの賞を受けるにふさわしい、内容が充実した本である。
著者は、パンクロックに憧れて英国に渡って定住し、その後託児所に勤め始めて保育士の資格を取る。その託児所をやめて保育園に勤め、再び元の託児所に戻るんだが、その託児所に最初に勤めていたときの記述が本書の後半、出戻って勤めていたときの記述が本書の前半になる。
この託児所は、英国の最貧困層が子どもを預けるような施設で、著者は「底辺託児所」と呼んでいる。最初の勤務時も著者はいろいろと困難を感じていたが、そこを取り仕切っていた責任者、アニーが志高い立派な人だったため、彼女に大いに感化され、この託児所の重要性を自分なりに感じるようになっていく。社会的に重要な役割を持っていると実感するようになっていくのだ。
ところが、その後、英国の政治が保守党政権に代わって緊縮政策にシフトしたために、この託児所も機能削減を余儀なくされ、半死半生に近い状態で運営しなければなくなった。また利用者も、それまでは生活保護を受けていた人々が多かったが、代わりに外国人労働者(これが意外に保守的で、底辺の英国人を差別するらしい)に変わってしまい、子どもたちの質もそれに合わせて変わっていく。このように、政治体制の変化の影響をもろに受けるのが著者の周囲の底辺社会であり、したがって著者の置かれた立場では、政治体制についても身近なこととして考えざるを得ないという。
基本的には、身辺雑記のエッセイではあるが、内容が激しくて(特に出てくる子どもたちが異様)ややパンク気味なので、読むのは少しばかりハードである。しかし、著者が実感した英国の下層社会の有りようを直に感じることができるという点で、優れた著作になっている。
先ほども書いたが、前半部と後半部は、時間軸が入れ替わっている。前半は雑誌『みすず』の連載記事で、後半は著者の個人ブログが出典ということである。ところどころ意味が伝わりにくい箇所があり、読みづらさを感じさせる部分もあるが、文章自体は読みやすい。本の体裁も、みすず書房らしく落ち着いたたたずまいである。日本の状況も英国とさして変わらなくなりつつあって、あちらの事情は決して他人事ではない。身辺の社会の格差について、いろいろと考えざるを得ない時代になってしまっていることを、この本を読んで感じさせられた。
新潮ドキュメント賞受賞
★★★☆参考:
竹林軒出張所『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー(本)』竹林軒出張所『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2(本)』竹林軒出張所『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した(本)』竹林軒出張所『パリ・ロンドン放浪記(本)』竹林軒出張所『子どもの未来を救え(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『セーフティネット・クライシス3(ドキュメンタリー)』