何も求めず ただ座るだけ
自給自足の禅寺 安泰寺の1年
(2021年・NHK)
NHK-BS1 BS1スペシャル
禅寺が救いになるという現実 兵庫県の山の中にあるという曹洞宗寺院、久斗山安泰寺に赴き、そこの修行僧に密着するドキュメンタリー。
自給自足の生活を送りながら、1日8時間座禅を組むという修行を行うのがこの安泰寺の日課である。この寺、入山したら3年はここにとどまるという条件付きで、修行者を受け入れている。修行者の多くは外国人で、生きることに行き詰まった人や生きる意味を求めてやって来た人などが多いようである。自給自足の生活は、曹洞宗の開祖、道元の、すべての生活が修行の場であるとする思想を反映しており、この安泰寺の生活自体が修行になる。それを考えると相当にストイックな環境ではあるが、入山希望者が絶えないところを見ると、人生に疲れた人々が世界中に溢れていることがわかる。
名門モスクワ大学に入ったが辞めてここに来たというキルギス人、周囲から見ると順風満帆な生き方をしてきたドイツ人、荒んだ人生を送ってきた離婚経験のある日本人など、修行者の背景が紹介されて、第三者的に見ると大変興味深い。途中で去っていく人や、新しく入山してきた人も登場し、そういう点でも興味が尽きないところである。日本の禅寺の修行者の多くが外国人であることは今や有名な事実で、禅の世界的な広がりには驚くばかりである。一方で、世界中の人々が、人生に疲れてこういった環境を目指してくるという社会は、やはり病んでいると言わざるを得ない。こういうところに救いを求められるうちは良いが、こういう場所にたどり着けない人はどうなるんだろうかとふと思う。
なお、タイトルの「何も求めず ただ座るだけ」という文句は、道元の教えの「只管打坐(しかんたざ)」を言い換えたものだろうが、この寺の修行を非常にうまく表現していると思う。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『NHK特集 永平寺(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『永平寺 禅の世界(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『禅 × 21世紀(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ビギナーズ 日本の思想 道元「典座教訓」(本)』竹林軒出張所『行 比叡山 千日回峰(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『大峯千日回峰行 修験道の荒行(本)』竹林軒出張所『沈黙の意味を模索して(ドキュメンタリー)』