バイヤーズクラブ いのち救う薬を求めて
(2019年・印Babel Press他)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
大手製薬会社のあり方に疑問を投げかける
C型肝炎は、重篤な症状が現れる病気で治療法もかつてはなかったが、今や特効薬が存在する。ギリアド社のソバルディという薬がそれで、劇的な効果を持つ薬だが、値段が法外で、8万ドル以上もする。金持ち以外は死ねと言わんばかりの製薬会社の態度には世界中から非難が集まったが、ギリアド社は、研究費を回収するための値段設定である……と取り合わない。
この薬剤は高額だが、一方でインドでは同じ成分の薬剤を安価で販売するシステムがある。これがいわゆるジェネリック薬品で、成分は同じだが価格は1/100(実際はもっと安く販売できるらしいが、ギリアド社との契約のためにこういう値段設定になっているらしい)。
このドキュメンタリーに登場するオーストラリア在住のジェフリーは、C型肝炎の症状で苦しんでいたが、意を決してインドに渡りジェネリック薬を入手した。その効果たるやてきめんで、それまで生活が立ちゆかないほど症状に苦しめられていたが、一転して健康な生活を送れるようになった。ジェフリーは、世界中のC型肝炎患者とネットを通じて繋がっていたが、彼らのためにこのジェネリック薬を手配しようとし始める。ただしこのような方法でジェネリック薬を入手して配布することは、現行法では違法であり(自身で使う分には合法)当局に逮捕される危険性も伴うが、しかし人道的な見地から、ジェネリック薬を手に入れられない人々を助けざるを得ないという道義的な責任により、活動を始めたのだった。
やがてジェフリーは、法に触れにくいように共同購入という形で仕入れを行い、それを各国の税関に引っかからないような方法で本人に届けるというシステムを作る。その活動が、タイトルになっている「バイヤーズクラブ」である。彼の活動は患者のコミュニティで有名になったが、一方のギリアド社も黙っておらず、ジェフリーに圧力をかけ始めてきた……というのが現状で、それを紹介してこのドキュメンタリーは終わる。
このドキュメンタリーでは、ジェフリーの活動を通じて、人道的な立場からギリアド社の態度を批判しており、論点は明確である。ギリアド社がすでに経費を十分回収しているにもかかわらず、依然として法外な価格設定をしているという点も指摘している。ロビー活動などを通じて儲けをひたすら追求する大手製薬会社のあり方にも疑義を呈しており、現在の製薬のあり方について考えさせられる内容になっている。
現在ジェネリック薬は、その多くがインドで作られている。これは、インドの国内法により、国際特許が切れていない医薬品を製造できるようになっているためで、そのためもあって、異常に高価な薬剤が、比較的安価に手に入るようになっている。インド建国の父、マハトマ・ガンディーの「すべての人に薬を届けるべき」という思想がこの政策に反映しているという話を聞いたことがあるが、そういう背景を考えると、このドキュメンタリー作品がインドの製作会社によって作られたのも十分頷けるというものである。NHKスペシャルあたりでこのようなトピックを扱ってくれば、日本国民の啓蒙にも繋がると思うんだが、日本社会の保守性が壁になっているのか、あまり日本の放送で触れられることはない。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『薬は誰のものか(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『遺伝子組み換え戦争(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『モンサントの世界戦略(ドキュメンタリー)』