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竹林軒出張所

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『科学者 野口英世』(ドキュメンタリー)

科学史 闇の事件簿 (3) 科学者 野口英世
(2021年・NHK)
NHK-BS1 フランケンシュタインの誘惑

野口英世は「偉人」だった

『科学者 野口英世』(ドキュメンタリー)_b0189364_08024643.jpg 野口英世と言えば、「偉人」中の「偉人」で、僕なども子どもの頃、親に伝記を読まされたクチである。お札の肖像にまでなっており、黄熱病の研究をしているときにその黄熱病で死んだという話は有名で、まさに殉教というイメージである。ただその実績については、「黄熱病」との連関でしか知らないが、とにかく「偉い人」という印象である。
 その「偉い人」だった野口英世が、人を欺くろくでなし人間として描かれたドラマが『野口英世伝 光は東方より』(1976年、TBS)という作品で、これを見たとき、当時学生だった僕はぶったまげ、同級生とも、野口英世ってあんな人間だったんだなどと語り合ったもので、思い込みとイメージの怖さを知ったものである。ただその(「黄熱病」研究の)実績については僕自身特に疑うこともなく、小ずるい人間であっても業績自体が偉いという思い込みはそのまま持続していたのである。ところがこのドキュメンタリーでは、その実績のことごとくに疑問符が付くとされていて、僕にとっては、あのドラマ以来の衝撃であった。
『科学者 野口英世』(ドキュメンタリー)_b0189364_08032258.jpg このドキュメンタリーでは、野口英世の生涯が再現ドラマによってかいつまんで紹介され、貧困の中、苦労して成り上がり、大学に行くこともなかったが医師となり、その後、渡米して(半ば強引に)とある大学に研究助手(雑用係)として潜り込むくだりが描かれる。その後、論文を発表して認められるようになり、ロックフェラー医学研究所で研究員の職に就くことができる。さまざまな画期的な論文(梅毒、狂犬病など)を立て続けに発表し、ノーベル賞候補にもなるが、論文の内容は再現性がない上、半ば強引な結論が導き出されていることから、一部の研究者の間で反発を買っていたようである。実際、現在の観点からは、ほとんどの論考は反証されており、野口の上昇志向、成功志向による勇み足だったという見方を、このドキュメンタリーでは取っている。
 彼の論文に対する現代からの評価については、現代の研究者たちがコメントしており、一様に低い評価になっていたのが印象的である。どの研究者についても、研究に対する慎重さを欠いていたという点では一致している。その証拠に野口が作った黄熱病に対するワクチン、野口ワクチンは、実際には黄熱病にはまったく効果をなさなかった。野口自身が野口ワクチンを接種していたにもかかわらず黄熱病で死んだことが動かぬ証拠である。結局のところ、野口英世は物語の人であり医学研究の人ではなかったという、ある研究者のコメントが印象的であった。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『人が悪魔に変わる時(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『汚れた金メダル(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『オピオイド・クライシス(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『人類初飛行の光と影(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『発明はいかに始まるか(本)』

by chikurinken | 2021-02-11 07:02 | ドキュメンタリー
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