れいわ一揆(2019年・風狂映画舎)
監督:原一男
撮影:原一男他
出演:安冨歩、山本太郎、渡辺てる子(ドキュメンタリー)
日本の政治の新しい動きを感じる
2019年の参議院議員選挙で旋風を巻き起こした政党、れいわ新撰組の活動に密着するドキュメンタリー。監督はなんと
『ゆきゆきて、神軍』の原一男で、上映時間は優に4時間を超えるという大作(?)である。
ご存知のように、れいわ新撰組は元俳優の山本太郎が主宰する政党で、2019年の参議院議員選挙で2人(しかも2人とも障害のある人々)参議院に送り込んだ。それまでノン・バリアフリーだった国会議事堂をプチ・バリアフリーに改装させるという、ある意味日本憲政史上最大の変革を成し遂げたのは記憶に新しい。
その主張は、ごく一般的な庶民の感覚に近く、彼らが政権を取ったときに実現できるかどうかはわからないが、しかし少なくとも現在の既成政党とは違うという印象は持つ。しかも彼らの活動には、動機の純粋さも感じる。彼らを扱ったドキュメンタリー映画があるということを知って、この映画に関心を持ちながらも、4時間以上もの大作ということで二の足を踏んだわけだが、監督が原一男ということだったので今回思い切って見てみたのだった。今回見たのは、『日本映画専門チャンネル』で放送されたものであり、それを録画して見たわけである。もちろん途中で小休止を入れた。
この映画では、先の参議院議員選挙で、れいわ新撰組から比例区に立候補した安冨歩という東大の先生を中心に密着し、れいわ旋風の全体像を俯瞰できるようになっている。また彼らの選挙活動が、既成政党と随分違うということも実感できる。女性の格好をした安冨歩(本人はこれを「女性装」と呼んでいる)の破天荒な選挙活動もなかなか面白い。日本人は立場に合わせて自分を無理やりに押し込めており、この国は日本立場主義人民共和国だというような主張はユニークであったが、明治神宮や京都大学で警備員とぶつかるあたりは、警備員の方に少し同情してしまう。とは言え、(安冨の選挙活動を排除しようとする)かれらの「立場主義」はおそらく安冨のもっとも嫌うところで、それが怒りの対象でもあるため、映画の最後の方にはそれにも納得することになる。
れいわ新撰組から出ている、その他の候補者9人もユニークな経歴の持ち主で、ともすれば既製の社会から疎外されているような立場の人が多いのも注目に値する。また、渡辺てる子(シングルマザーにして派遣労働者)という候補者が、だんだん演説家として成長していく様子も面白い。しまいにはロック歌手みたいに聴衆を扇動するようになるのである。
ましかし何より、この映画が4時間以上の長さであったにもかかわらず、まったく飽きなかったことが最大の驚きである。それは、山本太郎をはじめ、登場する(主役級の)人々が、皆正直であり、彼らの主張がきわめて正当であることが伝わってくるためで、彼らにシンパシーを感じるためである。もちろん政治的な主張をする人々をそうやすやすと信じるのは危険だと思うが、しかしいかにも「草の根」的な彼らの活動には日本の政治の新しい動きを感じ、今後に注目していきたいと思ってしまう。監督の原一男自身も、彼らの活動に面白さを感じていることが映像を通じて窺える。つまり製作者の息づかいまで伝わってくると言うこともできるのである。このような点でも、この作品、優れたドキュメンタリー映画と言えるのではないかと思う。まさにドキュメンタリー作家、原一男の面目躍如である。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『極私的エロス・恋歌1974(映画)』竹林軒出張所『ゆきゆきて、神軍(映画)』竹林軒出張所『全身小説家(映画)』竹林軒出張所『ニッポン国VS泉南石綿村(映画)』竹林軒出張所『なぜ君は総理大臣になれないのか(映画)』竹林軒出張所『香川一区(映画)』竹林軒出張所『立つ女たち(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『本当に君は総理大臣になれないのか(本)』竹林軒出張所『維新ぎらい(本)』竹林軒出張所『選挙(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『選挙2(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『自民党で選挙と議員をやりました(本)』竹林軒出張所『NHKから国民を守る党とは何だったのか?(本)』竹林軒出張所『貧乏人の逆襲! タダで生きる方法(本)』竹林軒出張所『ロデオ 民主主義国家の作り方(ドキュメンタリー)』