見た作品・読んだ本の数が少ないこともあってもう「ベスト」はやめようかとも思っていましたが、結局今年もやってしまいました。
例年どおり「僕が今年見た」という基準であるため、各作品が発表された年もまちまちで、他の人にとってはまったく何の意味もなさないかも知れませんが、個人的な総括ですんで、そのあたりご理解ください。先ほども言ったように、今年は多忙だったせいで数が全体的に少なくなっています。映画に至っては29本しか見ておらず、ここ数十年間で、見た本数は一番少ないのではないかというレベルです。一つには映画一本分の2時間という時間を確保することが難しくなったこと、もう一つは2時間続けて見ることが(年齢のせいか)苦痛になってきたことが理由として挙げられます。
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今年見た映画ベスト3(29本)
1.
『魔女の宅急便』2.
『会社物語 MEMORIES OF YOU』3.
『津軽じょんがら節』 映画は、見た本数が少ないだけでなく、多くは過去に見た作品の再見である。そのため、ここでリストした作品群も、まったく目新しさがない。『魔女の宅急便』に至ってはこんなところで取り上げるまでもないと思うが、今回あらためて見てあらためて感心したため、ここでピックアップした次第である。
次の『会社物語』は、映画監督、市川準の長編第二作目で、彼の才能が存分に発揮された作品である。この作品は公開時に見たが、空気感が独特で、当初から好きな作品だった。長い間もう一度見たいと思っていたが、今回、それが叶ったということになる。
『津軽じょんがら節』は、脚本家、中島丈博の代表的な作品で、いかにも70年代のATGというような題材だが、正統的かつドラマティックなよくできたストーリーの作品である。登場人物たちも、『祭りの準備』(中島丈博の自伝的作品)同様、大変ユニークな人物が目白押しである。作り自体は70年代の映画の一つの典型を踏襲しており、どこか日活ロマンポルノを思わせる雰囲気を醸し出している。独特の世界が作り出されているのは、さすがの中島丈博であった。
今年読んだ本ベスト3(45冊)
1.
『とはずがたり』2.
『七帝柔道記 (1)〜(6)』(マンガ版)3.
『日本文学史 近代・現代篇〈一〉』番外.
『失われた九州王朝』 『とはずがたり』は本の作りが丁寧で、しかも大変読みやすかった点が大きいが、原作の異色性、そして翻訳のうまさを含めての評価である。古典について知らない人でもすんなり読んでいけるような配慮が随所に施され、現代語訳古典作品のスタンダードになるのではないかという高水準の本であった。
『七帝柔道記』は、原作も読んでいるが、マンガの方に軍配を上げたい。原作については、内容は非常に充実していて面白かったが、ところどころわかりにくい描写が散見され、そこが残念な点であった。そのあたりはマンガ版で解消されており、しかも原作の持つ味わいもかなり再現されているという点で、大いに評価したいところである。
ドナルド・キーンの『日本文学史』は、現在「近代・現代篇」を読み進んでいるところだが、この『近代・現代篇〈一〉』では、明治初期から中期の比較的馴染みが薄い日本文学界を、当時の世相に照らし合わせながら非常にわかりやすく具体的に説明しており、大変秀逸である。現在読んでいるのは『〈二〉』だが、断然『〈一〉』の方が面白いと感じる。
番外は『失われた九州王朝』で、古田武彦の著者は20年以上前から接しているが、その斬新な日本古代史の解釈は今でも色褪せない。あらためて読んでみてそれを再確認した。
今年見たドラマ・ベスト3(37本)
1.
『太平記』(4)〜(27)2.
『北の国から』(1)〜(24)3.
『未来少年コナン』(1)〜(26) ここに挙げたドラマはどれもかつて見た作品ばかりである。
『太平記』は30年近く前のNHK大河ドラマ。正中の変あたりから建武の新政、観応の擾乱あたりまで非常に丁寧に描写しており、しかも登場人物のキャラクター付けがよくできているために人間ドラマとして見ても見所満載の作品になっている。足利尊氏、足利直義、高師直、楠木正成らの性格付けも優れていて、今見てもまったく古くささがないのがすごい。現在もNHK-BSで再放送中である。
『北の国から』は80年代を代表するドラマで、今さら言うまでもないが、2020年の今見ても、感心するシーンが多く、よくできているなと感じる。無駄と思われるシーンもいくらかあるが、それでも多くのシーンに重みがあり、日本のドラマ史に残る名作であることは疑いない。
『未来少年コナン』も70年代のアニメだが、宮崎駿の長編デビュー作で、彼のキャラクターデザインや映像描写の才能がいかんなく発揮された快作。こちらも『北の国から』同様、少しやり過ぎで恥ずかしくなるシーンが散見されるが、それでも優れたシーンのインパクトがあまりに強い上、メッセージも強く押し出されていて、なかなかに痛快な作品と言える。
今年見たドキュメンタリー・ベスト3(49本)
1.
『中年男の熱きコーラス』2.
『車中の人々』3.
『密猟者とレンジャー』 『中年男の熱きコーラス』は、中年男のセミプロ合唱団というユニークな題材を取り上げているだけでなく、内容も劇的で、ちょっとしたドラマのような話である。構成や編集も非常に巧みで、感動を呼ぶ作品である。
一方『車中の人々』は、ドキュメンタリーらしいドキュメンタリーで、今の日本の暗部を照らし出す作品。車中で毎日を過ごしている、言ってみればホームレスの人々が全国の道の駅(の駐車場)に増えている現状をレポートする。当事者にも直接インタビューを試みており、彼らがこのような生活を始めたいきさつについても窺うことができる。そしてそこに、今の日本に溢れる社会的な病理が見えてくるという構図である。
次の『密猟者とレンジャー』は、アフリカ、ケニアの話で、日本に住む我々からは遠い地だが、我々の社会と似たような社会的病理が存在し、それが貧困を生み出している。それを密猟と絡めてクローズアップする点が特徴的で、優れた告発ドキュメンタリーになっている。しかもそれを声高に主張するわけでなく淡々と話が進められる。この話もどことなくドラマ風に展開していき、劇的である。
というところで、今年も終了です。今年も1年、お世話になりました。また来年もときどき立ち寄ってやってください。
ではよいお年をお迎えください。
参考:
竹林軒出張所『2009年ベスト』竹林軒出張所『2010年ベスト』竹林軒出張所『2011年ベスト(映画、ドラマ編)』竹林軒出張所『2011年ベスト(本、ドキュメンタリー編)』竹林軒出張所『原発を知るための本、ドキュメンタリー2011年版』竹林軒出張所『2012年ベスト』竹林軒出張所『2013年ベスト』竹林軒出張所『2014年ベスト』竹林軒出張所『2015年ベスト』竹林軒出張所『2016年ベスト』竹林軒出張所『2017年ベスト』竹林軒出張所『2018年ベスト』竹林軒出張所『2019年ベスト』竹林軒出張所『2021年ベスト』竹林軒出張所『2022年ベスト』竹林軒出張所『2023年ベスト』