コロナ危機 未来の選択
エマニュエル・トッド グローバリゼーションを超えて
(2020年・NHK)
NHK-BS1 BS1スペシャル
予言者のご託宣を伺う番組ではない
人口学者、エマニュエル・トッドに、コロナ危機について語らせたドキュメンタリー。
「困ったときの有名知識人」というNHKの態度はいかがなものかと思うが、出てくるのがエマニュエル・トッドなんで、まあこれもありかなと思う。ただ例によって、トッドのことを「ソ連崩壊、アメリカの凋落、EUからの英国の離脱などを予言し的中させてきた」などと紹介していて、片腹痛い限り。本人が語っていたように、トッドは決して予言者ではない。
今回は、リモートでトッドにインタビューするという、安直にも程がある企画で、しかも聞き手のアナウンサーが、やたらウンウン頷いていて、幇間(たいこもち)風に映る。予言者のご託宣を伺うという風で、こちらも見ていて片腹痛い。普通に話を聞けないのかと思う。
語られる内容は、トッドらしく濃厚で、コロナ危機はグローバリゼーションの行き着く先、末期症状として現れているという独特の見解が目を引く。基本的にトッドは、グローバリゼーションが世界中で限界に来ていて、世界中がやがて保護主義的な方向に進むと言う見方をしている。今回のコロナ危機についても、フランスでマスクが不足しそのために被害が拡大したことを、中国での安価な商品生産が世界中に蔓延したために起こった結果として解釈しており、それがグローバリゼーションによってもたらされたもの、つまりコロナ危機(の少なくとも一面)はグローバリゼーションの結果という解釈をしている。
またコロナ関係では、コロナ危機対策が成功した国は東アジアやドイツなど父権の強い国々である……とした点はいかにもトッドらしいが、必ずしもそうとも言えないんじゃないかと感じた。
さらには、コロナ危機で拡大している米中対立についても触れており、これについては、前に放送された
『トッドが語るトランプショック』同様、米と中は経済的にはあくまで一体であって、対立すべき要素はないと語っていたが、マスコミで喧伝される「米中最終決戦」のような見方とは大きく異なり、こちらもなかなか先見的でユニークと言える。
途中
『オイコノミア』風の素朴なアニメーションが出てきたりしたが、進行上あまり役に立つアニメーションとも思えなかった。このあたりは『オイコノミア』とも共通で、もう少しうまいこと利用したら良いのにと思う。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『トッド 混迷の世界を読み解く(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『トッドが語るトランプショック(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『帝国以後 - アメリカ・システムの崩壊(本)』竹林軒出張所『西洋の敗北(本)』竹林軒出張所『グローバリズム以後(本)』竹林軒出張所『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる(本)』竹林軒出張所『問題は英国ではない、EUなのだ(本)』竹林軒出張所『シャルリとは誰か?(本)』竹林軒出張所『トッド 自身を語る(本)』竹林軒出張所『第三次世界大戦はもう始まっている(本)』