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竹林軒出張所

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『禅と骨』(映画)

禅と骨(2016年・大丈夫・人人FILMS)
監督:中村高寛
構成:中村高寛
出演:ヘンリ・ミトワ、仲村トオル(ナレーション)、ウエンツ瑛士、余貴美子

ヘンリ・ミトワの数奇な生涯

『禅と骨』(映画)_b0189364_17241562.jpg 日系アメリカ人の竜安寺の禅僧、ヘンリ・ミトワの生涯を描くドキュメンタリー。
 アメリカ人の父と日本人の母の間に生まれ、横浜で育ったヘンリ・ミトワ氏、太平洋戦争直前に、米国に帰った父を頼って米国に移るが、その後、日系人強制収容所に入れられるなど、波瀾万丈の人生を送る。
 しかし彼の波瀾万丈はそこで終わらない。戦後は、同じ日系アメリカ人女性と結婚するが、米国で茶道の家元と知り合い、やがて単身日本に戻ってきて、そこで茶道の修行を始める。茶道の他にも禅修行を行い僧籍を得る他、作陶も行い、童謡の「赤い靴」をモチーフにした映画作りまで志すという、きわめて多彩な方向に進む。人生も数奇だが趣味も数奇である。
 しかし一方で、家庭人としては必ずしも理想的ではなく、米国に残してきた家族(妻と子)を突然日本に呼んで住まわせたり、しかも生活費の面倒もあまり見なかったりと非常に身勝手な人間であったことが、家族の話から窺われる(女性関係も多彩だったようだ)。
 このようなミトワ氏の生涯を紹介しながら、晩年から死亡まで密着したのがこのドキュメンタリーである。途中、若い頃のミトワ氏の生活を再現したドラマが挟まれ、ヘンリ・ミトワ氏をウエンツ瑛士、その母を余貴美子が演じる。ミトワ氏にとって母の存在が大きく、「赤い靴」の映画にこだわったのも母への想いからではないかというのがこのドキュメンタリーの主張である。
 ミトワ氏自身が非常にユニークで、その生涯も破天荒。そういった意味で魅力的な人物でもあるため、彼の生涯自体なかなか面白く、当然彼を描いたドキュメンタリーも面白い作品になる。途中、ミトワ氏と娘が喧嘩してぶつかるシーンなんかがあったりして緊張が走ったりもするが、ミトワ氏の虚飾のない実像が見えてくるという意味で、大変良い効果をあげている。
 僕自身はミトワ氏のことをまったく知らなかったが、ユニークな人生を送った一人の人間のドキュメントとして見ると、知らない他人を扱った作品であっても面白く感じる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『海山 たけのおと(映画)』
竹林軒出張所『新宿タイガー(映画)』
竹林軒出張所『彼のいない八月が(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『五島のトラさん(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ナオキ(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2020-08-29 07:23 | 映画
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