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竹林軒出張所

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『カンパイ! 世界が恋する日本酒』(映画)

カンパイ! 世界が恋する日本酒(2015年・日米)
監督:小西未来
撮影:小西未来
出演:ドキュメンタリー

三者三様の人生
その共通項はサケ


『カンパイ! 世界が恋する日本酒』(映画)_b0189364_20413910.jpg 終戦以降1990年代まで、日本の酒の状況はひどいものだった。売られている酒はまがいものばかりで、日本酒もビールも糖で味付けしたものばかりで、とてもじゃないが飲めたものじゃない。それはウイスキーも一緒で、僕なんぞ学生時代、コンパでサントリーのウイスキーばかり出てきて、しかもどれもまったくうまくないんで、ウイスキー自体が不味いものだとばかり思っていたほどである。
 だがその後『間違いだらけのウイスキー選び』(三一新書)という本を読んだことがきっかけで、偽物のウイスキーが出回っている状況を知り、その後、スコッチやニッカのウイスキーを飲むようになって、少しずつそのうまさがわかるようになってきた。また同じ三一新書の『ほんものの酒を!』という本を読んで日本酒のひどい現状も知り、そのせいで本物の地酒を求めて飲むようになって、こちらもうまさがわかるようになった。要するに、僕自身が日本の醸造業界に偽物ばかりがはびこっていたことに気が付いたというわけだ。CMを使って偽物を売るという恥知らずな人々(大手醸造業の人々ね)との付き合いを止め、自らの嗅覚と情報収集能力を駆使して本物を求めていこうとするスタンスは、僕の場合、酒を通じて培われたのであった。
 時代は(酒については)その後少しずつ良い方向に変わり、本物志向のウイスキー、日本酒、ビールが市場に出てくるようになった。特に日本酒については、本格的なものが多数出てきたせいで、その良さが海外にも知られるようになって、その市場がグローバル化してきている。
『カンパイ! 世界が恋する日本酒』(映画)_b0189364_20414323.jpg この映画は、そういう状況を反映した作品で、日本酒に関係する3人の人々に迫り、彼らの日本酒愛を紹介するというものである。
 登場するのは、杜氏になったイギリス人のフィリップ・ハーパー、日本酒のエバンジェリストになったアメリカ人、ジョン・ゴントナー、岩手の蔵元の久慈浩介の3人。
 ハーパーとゴントナーは、大学卒業後、日本のJET(英語教師として日本の学校に派遣するプログラム)に応募して日本にやって来たという点で共通している。しかも奇遇なことに、同日に来日したという。さらに言えば、2人とも日本に対して特に関心を持っていなかったという点も同じである。だがその後、2人とも別ルートではあるが、日本酒に惹かれ、ハーパーは蔵元に入るという奇跡的な道を辿る(外国人の蔵人〈くらびと〉なんて少し前なら考えられなかった)。一方のゴントナーも、日本酒に惚れ込んでいたときに、たまたまジャパンタイムスに記事を書くことになり、それ以降執筆活動を始めて今に至るという代わった経歴である。要するに、まったく異なる人生を歩んでいた人々が、日本酒を軸にして接点を持ち共通項を持つようになるわけで、この映画のテーマもその辺にある。
 もう一人の久慈氏は、蔵元の五代目として生まれ、紆余曲折はあるが結局、家を継ぐことになる。ただ家業は若干傾きかけていた。そんな折、彼は、東京農大で醸造を学んでいたことから、自身の蔵元でも本格的な方法でで酒作りをやろうと決心する。こちらも紆余曲折はあるが、自ら積極的に関わることで見事な酒を作り出すことができ、(途中東日本大震災で大変な目にあったが)今に至るという半生である。この久慈氏も、いろいろなルートでハーパーやゴントナーと知り合い、日本の酒を愛する者同士、酒を軸につながり合うという図式ができあがっている。
 この3人が、それぞれの言葉で、自身の人生、そして酒を語り、それを集約したのがこの映画である。人の人生は、それが他人のものであっても、いろいろな積み重ねやめぐり逢いがあって現在に到達しているわけで、いろいろ聞くとなかなか面白いものであるよなあと感じる。そのあたりがこの作品の魅力になっている。日本酒と同じように、いろいろな個性と味があって、それを堪能できるという点で、なかなか味わい深い良い作品に仕上がっていた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『夏子の酒 (1)〜(11)(ドラマ)』
竹林軒出張所『たんぼ物語(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ヴィニュロンの妻(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2020-06-02 06:41 | 映画
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