シャツの店(1986年・NHK)
演出:深町幸男
脚本:山田太一
音楽:山本直純
出演:鶴田浩二、平田満、八千草薫、杉浦直樹、井川比佐志、佐藤浩市、美保純、松本留美
熟練のキャストが魅力……シナリオも熟練
頑固なシャツ職人の家族の物語。1986年の1月に『ドラマ人間模様』としてNHKで放送された全6話のドラマである。
主演は鶴田浩二で、『男たちの旅路』の吉岡ともひと味違った存在感でドラマの中心に居座る。家を出て行く妻を演じるのが八千草薫、同じく家を出て行く息子が佐藤浩市、住み込み(後にアパートを借りる)の職人が平田満で、これが主人公の家族である。そこに息子の同棲相手(美保純)やその父親(杉浦直樹)、出ていった妻に思いを寄せる男(井川比佐志)などが顔を出し、ドラマを形作っていく。
基本は熟年夫婦の話で、この2人の関係はどこにでもあるような、ありふれたものである。夫は、自分の仕事にプライドを持っているが、威張っていて、妻の気持ちを省みようとしない。それで妻もとうとう反旗を翻すのである。妻は夫に変わってほしいと思い、強硬手段に出たわけだが、夫は頑なに変わろうとしない……というか、古い人間であるため変われない。「古いやつだとお思いでしょうが古いやつほど新しいものを欲しがるものでございます」という「傷だらけの人生」(鶴田浩二の往年のヒット曲)を体現したような登場人物である。実際、このドラマの中でも、親方(鶴田)がカラオケでこの歌を歌ったりする。

ストーリーやテーマは、山田太一らしい硬派なよくできたもので、さすがの熟練作だが、途中見ていて恥ずかしいシーンがいくつかあって(美保純が鶴田浩二に迫るような仕草をするシーンやラストシーン)、それがどうにも気持ちが悪い。このドラマ自体、初放送時を含めて、これまで数回見ているが、やはりこのシーンは居心地が悪い。一方、登場人物たちのキャラクターが非常に個性的なのは大きな魅力である。特に、平田満演じる、住み込みの職人の昭夫と、親方との関係性が非常に面白く、このドラマの一番の見所になっている。親方行きつけのバーのホステスを演じる松本留美も非常に良い味を出している。山田ドラマ常連の杉浦直樹と井川比佐志については、今さら言うまでもない。もう名人芸の域である。山本直純の音楽がまた(テーマ曲だけでなく)オリジナリティに溢れる良いもので、ドラマに花を添える。

鶴田浩二は、
『男たちの旅路』、
『獅子の時代』以来の山田ドラマで、この作品が結局遺作になった。主人公の親方自体が鶴田浩二の実際の姿と重なり合うような存在で、「古い人間」の代表として本作にも臨んだのだろうかと推測するが、しかしそれを思うと、鶴田浩二としてはなかなか厳しい現実を突きつけられたようなストーリーとも考えることができる。
第23回ギャラクシー賞奨励賞受賞
★★★☆参考:
竹林軒出張所『男たちの旅路 第1部「非常階段」(ドラマ)』竹林軒出張所『男たちの旅路 第1部「路面電車」(ドラマ)』竹林軒出張所『男たちの旅路 第1部「猟銃」(ドラマ)』竹林軒出張所『男たちの旅路 第2部「廃車置場」(ドラマ)』竹林軒出張所『男たちの旅路 第3部「シルバー・シート」(ドラマ)』竹林軒出張所『獅子の時代 総集編(ドラマ)』竹林軒『山田太一のドラマ、マイベスト5+5』『シャツの店』OP主題曲