京大吉田寮
平林克己写真、宮西建礼、岡田裕子著
草思社
鷹揚さのない大学や社会に希望はない
京都大学にある吉田寮という学生寮の写真集。学生寮の写真の何が面白いのかといぶかる向きもあるだろうが、この寮は100年以上の歴史を持つ建物で、旧制第三高等学校時代から使われているという一種の文化財である。
ではありながら、現在、大学当局が、この建物を接収して破壊しようとしており、寮生らに退去を求めているという現状がある。これまで吉田寮については再三大学当局から圧力があって、その都度、何とか永らえてきたのだが、今度という今度は大変な危機状態。こういうことを考えあわせると、この吉田寮の写真を残すことに一定の価値が認められるわけだ。
また、この吉田寮、学生の完全自治で運営されているという、近年では珍しい施設である。かつては北海道大学の恵迪(けいてき)寮が有名で、僕も受験生だった頃憧れたりしたが、その後鉄筋コンクリートビルに建て替えられて、その魅力は半減した(ただし今でも学生の自治は貫かれているらしい)。京大の吉田寮、北大の恵迪寮、東北大学の明善寮が日本三大自治寮と呼ばれているらしいが、その一画が今、姿を消そうとしているわけだ。
古い建物で火災の危険があるというのが、大学当局側が示している廃寮の理由だが、元々この寮、学生運動の巣窟みたいに言われたりしていたこともあり、大学側からはあまり良い感情を持たれていなかった。このことを考え合わせると、火災の危険性や地震による倒壊の危険性はあくまでも建前で、実際は目障りな存在だからという理由ではないかと思う。あるいは跡地を何らかの形で活用したいということかも知れない。というのも、吉田寮には2015年に建設された新棟もあり、こちらも廃寮の対象になっているためである。天下の京大とあろうものが、こういった類の施設を許容できるだけの鷹揚さがないというのが情けないが、それは数年前から京大名物の立て看板が禁止されてしまったことと相通ずるものである。こういう現状を聞くと、大学の自治はどこへ行こうとしているのかが見えてこず、在りし日の大学の姿を考えると実に情けない気がするが、合理性ですべてを割り切ることが良いことなのか、関係者にはもう一度考えて欲しいと思う。
現在進行している廃寮騒動のせいもあり、近年、吉田寮のドラマが作られたり、ドキュメンタリーが放送されたりということも続いているが、大学側の廃寮の方針は変わらないようである。ちなみに吉田寮の実際の様子を見たければ、今でも映画
『鴨川ホルモー』で垣間見ることができる。帰国子女の登場人物(濱田岳)が吉田寮に住んでいるという設定で、シーンの中に吉田寮が登場している。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『鴨川ホルモー(映画)』