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竹林軒出張所

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『チャップリン対FBI』(ドキュメンタリー)

チャップリン対FBI 赤狩りフーバーとの50年
(2019年・仏Skopia Films)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

民主勢力と保守勢力の代理戦争という見方が斬新

『チャップリン対FBI』(ドキュメンタリー)_b0189364_21374543.jpg 映画の歴史を作ってきたチャールズ・チャップリンだが、そのリベラルな姿勢のために、FBI長官のフーバーからずっと目をつけられて、日常生活の監視までされていたという。フーバーはアメリカの保守主義の権化みたいな存在であるために、言ってみれば、民主勢力と保守勢力の争いの縮図であるとこの番組では捉えており、そのあたりが新鮮な視点である。
 実際、米国の近現代史では、民主勢力と保守勢力の争いが連綿と続いており、それは今でも同じ。多くの場合、保守勢力が政治力を持ち、民主政治を求めるリベラル勢力を弾圧するという構図である。
 民主的な姿勢を貫き、映画でも反資本主義、反ナチスを表現したチャップリンであれば、保守勢力にとって不快な存在であるに違いない。そのために、常に「共産主義者」というレッテルを貼られ(これは当時の米国では相当なダメージになるようだ)、1950年代の赤狩りの時代になると、そのプレッシャーは一層激しくなる。フーバー率いるFBIも、チャップリンの身辺をかぎ回るようになり、とうとう、チャップリンの米国在住権まで剥奪してしまった。そのため、英国に旅行に出ていたチャップリンは米国に戻ることができなくなり、その後米国に住むことができなくなった。結局、晩年まで家族と一緒にスイスで暮らすことになったのである。
 しかし今見ると、チャップリンの業績は映画史に残るようなものであり、共産主義者であったこともない。もちろん共産主義者だからといって、何か問題になることはない。単に「敵」を陥れるためのデマゴーグに過ぎなかったことが今になってみれば明らかである(当時からわかっていた人も多かっただろうが)。
 こうやって一つの歴史として回顧してみると、保守勢力は、時代の流れを止めようとしているだけで、しかも、権力や暴力を駆使するという、許されないやり方で弾圧を行うに過ぎないことがわかる。言い換えると、自分の思うとおりにならないのが不満で、そのせいで他人に暴行を加えるような存在である。今の日本でも同様の人間が多いようだが、そういう人間は、少なくとも表舞台には出てくるなと言いたい。歴史の流れを逆行させようとするだけの存在で、歴史的に見ると害悪以外の何ものでもない。それに歴史の流れは、彼らがどれだけがんばっても変えることはできない。それは明らかだ。
 結局、チャップリンは、フーバーの死後、アカデミーに招待され、米国に入国することができた。アカデミー賞名誉賞を受賞し、聴衆に万雷の拍手で迎えられたのだった。これを考えると保守勢力、フーバーの存在価値など、阻害者という役割以外、まったくなかったことがわかる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『チャップリン自伝 ― 若き日々(本)』
竹林軒出張所『チャップリン自伝〈下〉栄光の日々(本)』
竹林軒出張所『キッド(映画)』
竹林軒出張所『街の灯(映画)』
竹林軒出張所『モダン・タイムス(映画)』
竹林軒出張所『殺人狂時代(映画)』
竹林軒出張所『ニューヨークの王様(映画)』
竹林軒出張所『チャップリンの声なき抵抗(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『再びカラーでよみがえるアメリカ 1(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 第8集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『世界サブカルチャー史 1(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2020-03-18 06:37 | ドキュメンタリー
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