映像の世紀プレミアム 第15集
東京 夢と幻想の1964年
(2019年・NHK)
NHK-BSプレミアム
オリンピックイヤーにちなんだのか
1964年の東京が舞台
『映像の世紀』の映像をテーマごとに再構成した『映像の世紀プレミアム』。第15集は「東京 夢と幻想の1964年」と名うって、東京オリンピックの前後に焦点を当てる。今回は『映像の世紀』と重複した映像はほとんどなく、むしろ、
『東京ブラックホールⅡ』と重複する映像が多かった。あの番組に出ていた「山田孝之が当時の人混みの中を歩く」という映像まで出てくる有り様である。
東京オリンピックの誘致が決まって、世界一汚い街の1つとして有名だった東京でも、浄化運動できれいにしようという動きが出てくる。同時に交通渋滞もひどいもので、これも大きな課題だった。この番組でも当時の映像が出るが、今の中国よりもっとひどい。他所様の国のことをいろいろとしたり顔で言う若い奴もいるが、日本だって少し前まで似たようなものだったのである。交通渋滞は、オリンピックを行う上で致命的であるため、高速道路が作られることになった。ただし用地買収などをしていると時間がかかるということで、川の上や運河の上、とにかく用地買収をしなくても済むような場所に高架道路を張り巡らせるという方向で進む。要するに、オリンピックに間に合わせるために付け焼き刃の突貫工事が行われたというわけである。
64年はまた、水不足に悩まされる年でもあった。春から夏にかけて、降水量が異常に少なく、夏場にはダムの貯水率が一桁台にまで落ち込み、東京全体で断水が実施される。「東京砂漠」という言葉まで流行する始末である。それに対して、行政府は大した対策も打てず、こんなことでオリンピックが開催できるのかという論調もマスコミには出てくる。市民の側にしても、オリンピックを開催するより、こういう対策を優先しなければならないのではないかという意見が多く、オリンピックに対する関心は低かったのだった。
ただ、聖火がギリシャで採火され、その後アジアの各地を通って東京まで運ばれる頃になると、オリンピックに対する期待が少しずつ市民の間にも広がってくる。そしていざオリンピックが始まると、それまで批判的だった文化人たちも、オリンピック熱に浮かされるようになる。現金なものである。
終わってみると、女子バレーボールで優勝するなど、競技面でも大きな盛り上がりを見せ、東京オリンピックは成功裏に終わった。
内容は、『東京ブラックホールⅡ』にかなり近いが、あの番組ほど批判的な論調でなかったのが、少し残念な部分である。ただ、学徒出陣と東京オリンピック開会式(どちらも同じ神宮外苑の競技場)の両方を客席から見た杉本苑子の感慨が朗読されるなど(このエッセイはオリジナル版の『映像の世紀』でも朗読されていた)、印象的なシーンも多く、見所は多かった。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 16(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『東京ブラックホールⅡ』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 1(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 2(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 4(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 7(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 8(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 12(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 13(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 14(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 17(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 18(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 20(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 21(ドキュメンタリー)』