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竹林軒出張所

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『「名経営者」はどこで間違ったのか』(本)

「名経営者」はどこで間違ったのか
ゴーンと日産、20年の光と影

法木秀雄著
PHP研究所

没落してただ消え去るのみ、なのか

『「名経営者」はどこで間違ったのか』(本)_b0189364_21553843.jpg 日産自動車の元北米副社長にして、BMWジャパン、クライスラージャパンなどでも役員を務めた著者による、日産自動車の来し方の分析。日産の混乱をレポートする人物として、これ以上適した人材はあるまい。
 1999年、混迷を続ける日産自動車にトップとして現れ、次々と改革を断行して、それまで低迷していた日産自動車を不死鳥のごとく回復させたのは、誰あろうカルロス・ゴーン。世界中でその手腕に注目が集まったのは記憶に新しいところ。
 著者の分析によると、日産自動車は当時、世界中に工場を作るなどして事業をグローバルに展開していたが、その多くが日産の経営の足を引っぱっていたらしい。日産は技術力はあるが、強力なリーダーシップに欠けていたことから、経営方針も迷走していて、適切な意志決定が行われなかったのが、それまでの凋落の原因と言う。そこに現れたのがカルロス・ゴーンで、かなり強引な手腕でコストカットを断行し、その結果、業績をV字回復させたのであった。日産にとって欠けていたピースを補ったのがゴーンだというのだ。
 ただ実際にゴーンがやったことと言えば、強引なコストカットであり、その結果、営業利益も増えたが、その反面、これまで築いてきたサプライチェーンが崩壊した。ゴーンが実際に行ったことは、日産が持っていた資産を売却することで経常収支を良好にしたことであり、決して自動車会社としての日産の職能改善ではなかったと言うのである。
 そのためゴーンの日産も当初の5年間は業績を向上させたが、その後はゴーン以前と同じ程度の業績で、しかも売れ筋の車(マーチなど)を海外生産するなどしたため、国内の生産台数と販売台数が著しく減少したという負の影響ももたらしている。その上、提携先のルノーから利益と技術を収奪されるという体系にしてしまったのもゴーンの失策の一つ。ただしこれは日産側にとってであり、ルノーおよびゴーンにとっては、利益を吸い上げられる美味しい話だったようで、結局日産は、彼らにとって良いカモになってしまった。
 ゴーンがいなくなった今、日産自動車がやるべきことはルノーと手を切り、優れたリーダーの下、健全な経営に移行することであるというような結論に至っているが、この本を読む限り、これは無理な相談のようで、そうすると日産も没落してただ消え去るのみ、というような気もしてくる。
 著者の日産や自動車業界に対する分析は悪くないが、総じて独断的過ぎるようなきらいもある。もう少し冷静な分析に接してみたいとも感じた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『カルロス・ゴーン 栄光と転落(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ロシアで働く(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『夏の一族 (1)〜(3)(ドラマ)』

by chikurinken | 2020-03-04 06:55 |
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