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竹林軒出張所

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『アイアンロード』(ドキュメンタリー)

アイアンロード 知られざる古代文明の道
(2019年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

その時(鉄によって)歴史が変わった

『アイアンロード』(ドキュメンタリー)_b0189364_19423547.jpg 紀元前24〜20世紀頃(とこの番組では言っていた)小アジアに登場した鉄は、その後、世界中で、さまざまな分野に革命を起こした。中でも武器としての力はすさまじく、それまで青銅器中心だった武器の世界にも大きな革命をもたらした。そのため、鉄を手にした文明は、その武力的優位性を背景に勢力を拡大していく。エジプトという大王国が存在しながら、地中海地域で対抗することができたヒッタイトなどはその好例である。ヒッタイトは鉄を手に入れ、しかもその製法を厳格に管理していたことから、同地域の覇権をエジプトと競う存在になっていた。
 その後、ヒッタイトが滅びると、鉄の製法は世界中に伝搬していく。このドキュメンタリーで扱われている伝搬ルートは、中央アジアのスキタイへと続く道で、スキタイは、鉄器の獲得によって、ギリシャに恐れられる武力を手に入れたらしく、中央アジアにも広大な勢力圏を築いたらしい。番組では高度な文明と考えられるスキタイの遺跡も多数登場する。
 その後に鉄文明を受け継いだのが紀元前の匈奴で、彼らも鉄のおかげで、当時の新興国家、漢王朝と覇権を競うまでに強大化する。一方、鉄製武器のせいで匈奴に苦杯をなめていた漢王朝側も、別ルートで鉄の製法を身に付け、やがて匈奴の撃退に成功する。同時に農機具にも鉄器を使ったせいで、農産物の収穫量が大幅に増加し(一種の農業革命)、繁栄の時代を迎えることになった。
 このドキュメンタリーでは、このヒッタイトから匈奴、漢王朝へと繋がるルートをアイアンロードと名付け、その歴史的重要性に触れていく。スキタイを始め、ヒッタイトや匈奴、中国の遺跡なども紹介され、鉄生産の始原に関する歴史ドキュメンタリーとして、それなりに仕上がっているが、NHKの歴史物につきものの、決めつけがあちこちに散見される。たとえばある学者が「〜とも考えられます」などと可能性について語っていた次のシーンで、「これで〜であることがわかりました」と事実に昇華したりしていることがあるが、毎度のことながら、見ていて呆れてしまう。いずれにしてもNHKの歴史物は話半分で聞いておかなければならないと感じる。
★★★☆

捕捉:
 このドキュメンタリーの中で、アンカーやナレーターが「ヒッタイト」と言うとき、前にアクセントを置き「ひった糸」のように発声しており、大変違和感を持った。登場する専門家は皆、後ろにアクセントを置いて「ひっタイト」みたいに発声していたし、僕もこれまでこのように発声していたので、かなり奇妙な感じがした。専門家が「ひっタイト」で発声しているんだからそれにあわせたら良いんじゃないのと思うがどうだろうか。
 かつて陰陽師を発声する際「オンみょうじ」みたいに前にアクセントを置く発声が標準化したことがあった(同名タイトルの映画が発表されたとき)が、あれもそれまでは「おんミョージ」のように後ろにアクセントを置いて発声するのが普通だった。陰陽道(「おんミョードー」風の後ろアクセントの発声)のプロフェッショナルなんだから「おんミョージ」と発声するのが筋だと思うが、今では「オンみょうじ」と言う人が多いと思う。「ヒッタイト」もああいう風になったら少し気持ち悪いので、あえてここで触れておく。

参考:
竹林軒出張所『シルクロード 第1集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『世界史とつなげて学ぶ中国全史(本)』
竹林軒出張所『運慶と快慶 新発見!幻の傑作(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2020-02-25 06:42 | ドキュメンタリー
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