認知症の第一人者が認知症になった
(2020年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル
タイトル通り、ユニークな素材
認知症医療の第一人者、長谷川和夫という医師が自ら認知症になり、現在、その姿を人々の前にその姿を曝すという活動をしているが、その模様を追うドキュメンタリーである。
この長谷川和夫医師、認知症の診断スケールを開発したり、「痴呆症」という差別的な名称で呼ばれていた病気を「認知症」という言葉で言い換え定着させたり、患者家族の負担を減らすためのデイケア推進などを積極的に行ったりしてきた人で、「認知症の第一人者」という称号にふさわしいお方。だが、そのような頭脳も、90歳になり認知症の症状が現れてきた。しかし長谷川医師、かつて先輩医師に「君が認知症になって初めて君の研究は完成する」と言われた言葉を地で行くように、現在の状態について細かく記録を取り、同時にあちこちに出向いて自らの状況を伝えるための講演活動を続けている。真の認知症の姿を世の中に知らしめていこうという姿は、彼のライフワークに通じるものであり、それを自らの身をもって実践しているのがこの長谷川医師であり、その姿には心底感心する。これこそがプロ根性というものである。
この番組では、この長谷川医師の現在の姿とこれまでの実績などを適宜散りばめながら紹介していくんだが、彼の認知症自体は、(映像からは)傍から見ていてそれほどひどいと感じることはないが、自分を表現することができないことに苦しさを感じるなど、認知症の辛さを自ら追体験しているようにも見受けられる。また(かつて自分が患者に薦めたはずの)デイサービスについては、行かされるのが非常に苦痛だったりして(傍から見ていてもそうだろうと思う)、自らの活動に対する反省も迫られるという状況は皮肉なものである。同時に「認知症になってみると本当の認知症の姿がわかる」、「認知症は神様が用意してくれた一つの救い」というような言葉もなかなか力強く、まさに彼のライフワークの総仕上げという様相を呈してきているとも感じられる。
このように、いろいろな意味で、非常にユニークな素材であり、内容も十分なドキュメンタリーであった。近年のNHKスペシャルの傑作の1つと言える。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『海辺のリア(映画)』竹林軒出張所『ぼけますから、よろしくお願いします。(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『徘徊 ママリン87歳の夏(映画)』竹林軒出張所『毎日がアルツハイマー(映画)』竹林軒出張所『いま助けてほしい(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『このクスリがボケを生む!(本)』