ベリングキャット 市民が切り開く調査報道
(2018年・蘭Submarine)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
調査報道までオープンソースに
フェイクニュースがはびこる昨今……と言っても、フェイクを発信しているのが権力者側だと来ているから始末が悪い。
そういう中で、市民の手でフェイクであることを明らかにしようとする人々がいる。それがベリングキャットで、彼らはネット上の情報を分析することで、情報がフェイクであることを明らかにし、その事実を公表している。
ベリングキャットのメンバーは、ネット上でつながって活動しており、このあたり、フリーソフトウェア開発で利用されるオープンソース・テクノロジーを彷彿とさせる。実際彼らも「オープンソースの調査報道」であると謳っている。
ただ、オープンソース的な活動と言っても、その力は侮れず、たとえば2014年にウクライナ・ロシア国境でマレーシア航空機が撃墜された事件では、それがロシア軍の地対空ミサイルによって行われたことを明らかにした。ちなみにロシア側は、これがウクライナの攻撃だと主張していた。
ベリングキャットは、ネット上に転がっているSNSなどの情報と画像(ロシア軍の兵士やその肉親がアップした写真など)、それからGoogle Earthなどの情報から真犯人を割り出したのだが、主張に説得力があるため信憑性はかなり高いと感じる。
フェイクニュースでは、元々デタラメな情報が垂れ流され、それがまことしやかに事実であるかのように仕立て上げられているため、本当にこれが偽情報であるかどうかは、にわかに断定できない。そのためベリングキャットは、緻密な分析を繰り返して偽物であることを証明していくんだが、逆にその証明の方が偽情報と決めつけられる危険性もある(実際、ロシア政府、シリア政府、アメリカ大統領はこういった方法で攻撃してくる)。結局のところ、第三者的に見て、どちらに説得力があるかということが決めてになるため、フェイクの証明には説得力を持たせるための配慮が必要になる。ベリングキャットの情報は、先ほども言ったように、非常な説得力があるため、彼らの詳細かつ繊細な分析は世界的に高く評価されているのである。国家のウソに対抗する新たな勢力として、こういったオープンソース的な活動が台頭してきているということが、このドキュメンタリーからわかる。これこそが真の草の根民主主義と言えるのではないか。
「ベリングキャット」という名前は、猫に鈴をつけることから来ているが、近年力を失いつつあるマスコミに代わってドラ猫に鈴をつけるのは、やはり普通の市民ということになるのだろうか。ベリングキャットの活動には、今後も注目していきたいと思う。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『“フェイクニュース”を阻止せよ(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『NYタイムズの100日間(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ドナルド・トランプのおかしな世界(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『プーチンの道(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『中国“経済失速”の真実(ドキュメンタリー)』