『ストレンジャー 上海の芥川龍之介』（ドラマ）

ストレンジャー 上海の芥川龍之介（2019年・NHK）
原案：芥川龍之介
脚本：渡辺あや
演出：加藤拓
出演：松田龍平、岡部たかし、中村ゆり、奈緒、金世佳

ドラマになりにくい素材

　芥川龍之介は、もちろん小説で有名だが、1921年に新聞の特派員として4カ月間中国（当時は中華民国）に滞在し、中国の文化人にインタビューを敢行したりしている。このあたりの事情は『上海游記』という著作で触れられているらしいんだが、この『上海游記』を基にしてドラマ化したのがこの作品である。
　芥川のマイナーな作品をドラマ化すること自体かなり意欲的な印象を受けたんで、このドラマも興味を持って見てみたんだが、ドラマ自体はどうと言うことのない作品で、言ってみれば芥川龍之介（松田龍平）が中国で見聞きしたことをそのまま再現したという類のものになっていた。ドラマチックな要素も多少は盛り込まれているが、ドラマ的な一貫性がないため、何じゃこりゃというような感想しか沸かなかった。原作自体、ドラマになりにくい素材だったんではないかとも感じる。
　ただしこのドラマでは、当時の上海の風景や風俗が再現されていたりして、見所はそれなりにある。ただいかんせん、シナリオがこれではドラマとしては成り立たないだろうと思う。またキャスティングももう一つピンと来ない。中国人の遊女役の女優たちは美女揃いで魅力的だったが、松田龍平の芥川は決して褒められたものではない。1時間15分のドラマだったが、1時間が非常に長く感じた。見る必要はなかったかと思う。
　年末のNHKでは、このドラマの他にも江戸川乱歩原作のドラマをやったりしていたが、なんだかどれも空回りしているようで、痛々しさを感じるものばかりだった。
★★★

参考：
竹林軒出張所『羅生門・鼻・芋粥・偸盗（本）』
竹林軒出張所『地獄変・邪宗門・好色・藪の中（本）』
竹林軒出張所『蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ（本）』
竹林軒出張所『羅生門（映画）』
竹林軒出張所『地獄変（映画）』
竹林軒出張所『漱石の印税帖 娘婿がみた素顔の文豪（本）』
竹林軒出張所『漱石悶々（ドラマ）』
竹林軒出張所『夏目漱石の妻 (1)（ドラマ）』