偽りのガリレオ 世紀を超えた古書詐欺事件
(2019年・独Ventana Film/rbb/ARTE/NHK)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
ガリレオ偽書事件の一部始終
古書が高値で取引されるのは世界中で共通だが、特にヨーロッパでは、巨匠が自らタッチした発表当時の初版本などは、各地の図書館、美術館にとって垂涎の的になっている。希少本が市場に出た途端奪い合いになって高値が付くという構図は、美術作品などと変わらない。
そんなヨーロッパの古書界で、2005年にガリレオ・ガリレイの著作、『星界の報告』の初版本(しかもガリレオの署名付き)が市場に出た。これは世界に百冊しかないという稀少本で、しかも、通常なら銅版画の挿絵がある部分、あるいはブランクになっている部分(ガリレオが締切のために挿絵を入れず見切り発車した版もあるらしい)に、手書きの水彩画が入っているもの(こういうケースはこれまでなかった)で、かなりの珍品である。これを承けて、鑑定家のチームがこの本の調査に携わったんだが、結果的にこれは本物であるという判定が出された。いったんはそれで収束したんだが、その後、1人の研究者がこれに疑義を唱え、再検討した結果、偽物であることが判明する。
しかもその後、これを偽造した人間が別件で逮捕され、この本が偽造であったことが明るみに出る。この人物はマッシモ・デ・カーロというイタリア人で、しかもジロラリーニ図書館という伝統ある図書館の館長を務めていた人物である。(かつてイタリアに君臨していた元首相)ベルルスコーニにも近いとされる人物であった。この男が、自身の図書館から古書を外部に持ち出しており(数千冊と言われる)、そのうちの多くがいまだに行方不明になっていた。このスキャンダルによって逮捕され、禁固7年が言い渡されるが、この人物がガリレオの古書を偽造していたことが判明するのである。しかもこのデ・カーロ、意図的に偽書であることを示す証拠まで残しており(鑑定家たちへの挑戦ということか)、このような偽書は自分の趣味のために作っていると語って、悪びれる様子もない。実際、現在の偽造技術は非常に精巧になっており、見破るのはますます難しくなっているらしい。

極東の片隅に暮らしている僕にとっては、ヨーロッパの名著が偽造されたところで特に困らないが、これは歴史に対する挑戦で歴史を間違った方向に塗り替える可能性もある、と主張する人々もいるようだ。第三者的な立場からは、「歴史に対する挑戦」だと思うんならしっかり鑑定してくれと言うしかない。なお、犯人のデ・カーロ、今後ももっと素晴らしい偽造書を作りたいとうそぶいていたが、これも非常に印象的だった。
この事件で振り回された人々を含め、事件の一部始終を紹介するのがこのドキュメンタリーである。テンポが良く、情報量も必要十分で、よく練り上げられたドキュメンタリーと感じる。面白い作品であるが、個人的には、偽造もある意味、一つの作品のように思えるため、よくできている偽造作品については、書籍に限らず美術についても、それほど反感を感じない。騙された人々に対する共感というか同情もあまりない。そのため(偽造を告発するという態度の)このドキュメンタリーとは、多少温度差があると感じた。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『贋作師ベルトラッチ(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『フェルメール盗難事件(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『FBI美術捜査官 奪われた名画を追え(本)』竹林軒出張所『ジュラシック・キャッシュ(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『指名手配:バンクシー(ドキュメンタリー)』