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竹林軒出張所

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2019年ベスト

 今年も恒例のベストです。例年どおり「僕が今年見た」という基準であるため、各作品が発表された年もまちまちで、他の人にとってはまったく何の意味もなさないかも知れませんが、個人的な総括ですんで、そのあたりご理解ください。
(リンクはすべて過去の記事)

今年見た映画ベスト5(52本)
1. 『ラスト・ショー』
2. 『海よりもまだ深く』
3. 『麻雀放浪記』
4. 『アラバマ物語』
5. 『ギルバート・グレイプ』

2019年ベスト_b0189364_20514796.jpg 今年も見た映画は、過去に何度か見た映画が多く、ベスト5を選ぶなどというのも少々バカバカしさを感じるが、こんな感じでピックアップしてみた。他の作品、『十二人の怒れる男』『刑事ジョン・ブック 目撃者』『浮草』は、何度も見た好きな映画であるため、ここであらためて取り上げるのもはばかられる。強いて言えば全部1位である。
 『ラスト・ショー』も前に見た映画ではあるが、前と印象が大分違っていたので取り上げた。エドワード・ホッパーの絵画のような等身大のアメリカが描かれていて味わい深い。『海よりもまだ深く』は、数少ない「今年初めて見た」映画で、テレビドラマふうの脚本、演出がユニークである。地味だが是枝裕和の才能が遺憾なく発揮された作品である。『麻雀放浪記』も公開当時見た映画だが、今見るとまた別の感慨がある。短時間に凝縮された濃密な空間に和田誠の才能を感じさせる。『アラバマ物語』、『ギルバート・グレイプ』も等身大のアメリカを感じさせる映画。どちらも二度目だが、最初に見たとき以上に感じるところがあった。やはり映画は余裕のある状態で見たいものだとあらためて思う。

今年見たドラマ・ベスト5(27本)
1. 『日本の面影』
2. 『フルーツ宅配便』
3. 『まんが道 青春編』
4. 『悪妻行進曲』
5. 『わが青春のとき』

2019年ベスト_b0189364_20322718.jpg ドラマは例によって少なめで、新しいものにはあまり見るべきものがないのは相変わらず。日本のテレビの末期的状況を表しているようである。その中でテレビ東京の『フルーツ宅配便』は唯一の収穫と言って良い。鈴木良雄のマンガが原作だが、現代社会の闇の部分を映し出すようなストーリーとそれを活かした演出に拍手である。ただ、テレビ向けにエンタテイメントにしてしまったせいで、つまらなくなった部分も散見されたのが残念。やはり本格的なドラマを作るのは今の時代無理なんだろうかと感じてしまう。『わが青春のとき』も、古いドラマだが今回が初見である。ストーリーは重厚で、地味ではあるがいろいろな問いかけが視聴者に対して行われるのは、やはり時代のせいか。『日本の面影』、『まんが道 青春編』、『悪妻行進曲』はどれも今回が2回目。『日本の面影』は、僕にとって山田太一のベスト・ドラマの1本で、個人的には今さらあらためて言うまでもないという作品。『まんが道 青春編』は、原作も読んでおり、前に見たときから気に入っていた作品である。トキワ荘周辺の事情が細かく紹介されているという点で、原作ともども、トキワ荘関連作品の画期となった作品と言える。『悪妻行進曲』はかなり地味だが、77年の放送時に見て以来、ずっと見たかった作品である。ドラマで使われているいろいろな素材がずっと心の中に残り続けているという、僕にとって大切な存在である。キャラクターの扱いも絶品で、ドラマの見本のようである。こういったホームドラマも今はない。

今年読んだ本ベスト5(77冊)
1. 『蛍雪時代 – ボクの中学生日記』
2. 『「ひきこもり」救出マニュアル〈実践編〉』
3. 『「古今和歌集」の創造力』
4. 『カフェでカフィを』
5. 『にごりえ・たけくらべ』

2019年ベスト_b0189364_20504249.jpg 今年の個人的な掘り出し物は矢口高雄で、『蛍雪時代』、『オーイ!! やまびこ』などの自伝的マンガの他、『ボクの学校は山と川』『ボクの先生は山と川』などのエッセイも新発見だった。中でもやはり『蛍雪時代』が出色。驚きの連続のエピソードを丁寧な作画で彩る。自伝マンガの最高傑作の一つと言える。『「ひきこもり」救出マニュアル〈実践編〉』は増加中のひきこもりに対する処方箋で、このような処方箋はまだ発展途上とは言え、なかなか含蓄のある内容であった。現時点でひきこもり対策の標準と言えるかも知れない。『「古今和歌集」の創造力』はかなりピンポイントなテーマだが、『古今和歌集』について、日本の美意識を規定する役割を果たしたという指摘は新鮮である。『古今和歌集』の文学史的な価値もあらためて掘り起こされていて、そういう点でも価値がある。『カフェでカフィを』はマンガであるが、高野文子を彷彿させる感性を、しっかりと組み上げられた構造の中で展開していく作品である。続編もあり、どちらも非常に質が高い。この作家も僕にとって新発見であった。『にごりえ・たけくらべ』は、今さら言うまでもない名作だが、前にも書いたように岩波文庫版が非常に秀逸。電子書籍ではなく、出版物としての本の価値をあらためて見直すきっかけになった。

今年見たドキュメンタリー・ベスト5(66本)
1. 『罠師 片桐邦雄・ジビエの極意』
2. 『爆弾処理兵 極限の記録』
3. 『彼女は安楽死を選んだ』
4. 『熱中コマ大戦』
5. 『映像詩 フランスの田園』

2019年ベスト_b0189364_17435465.jpg 『罠師 片桐邦雄・ジビエの極意』は、タイトルが引っかかったんで(グルメものをイメージさせる)なかなか手をつけなかったが、見始めたら止められなくなった。人と動物との格闘がものすごい緊張感を生み出す作品で、しかも先住民を彷彿させるような丁重な葬り方も紹介され、二度感心である。ものすごい緊張感と言えば『爆弾処理兵 極限の記録』にも当てはまる。こちらは中東の政治状況もあわせて紹介され、それも勉強になる。我々には知らなければならないことがまだまだあると感じる。『彼女は安楽死を選んだ』は、今年のNHKスペシャルのベスト作品である。安楽死について考えるきっかけを提起したという点でNHKのクリーンヒットと言うことができる。もっとも、その後も世の中で安楽死の議論が進んだとは思えないところが少々歯がゆい。『熱中コマ大戦』は東海テレビのドキュメンタリーだが、社会派ドキュメンタリーではなく、もう少し柔らかい素材である。言ってみれば中小企業版のロボコンであるが、中にはヒールみたいな競技者が登場したりして、(高専や大学と違い)やはり大人の世界は違うと思わせる。それに素材の扱い方も非常にうまく、こういう方面でも東海テレビは一日の長があると感じる。『映像詩 フランスの田園』は、『BS世界のドキュメンタリー』枠で放送されたフランスの作品。単なる「映像詩」に終止せず、人の営みと自然環境の共存が可能かを問う真摯なドキュメンタリーであった。もちろん「映像詩」としても秀逸である。

 というところで、今年も終了です。今年も1年、お世話になりました。また来年もときどき立ち寄ってやってください。
 ではよいお年をお迎えください。

参考:
竹林軒出張所『2009年ベスト』
竹林軒出張所『2010年ベスト』
竹林軒出張所『2011年ベスト(映画、ドラマ編)』
竹林軒出張所『2011年ベスト(本、ドキュメンタリー編)』
竹林軒出張所『原発を知るための本、ドキュメンタリー2011年版』
竹林軒出張所『2012年ベスト』
竹林軒出張所『2013年ベスト』
竹林軒出張所『2014年ベスト』
竹林軒出張所『2015年ベスト』
竹林軒出張所『2016年ベスト』
竹林軒出張所『2017年ベスト』
竹林軒出張所『2018年ベスト』
竹林軒出張所『2020年ベスト』
竹林軒出張所『2021年ベスト』
竹林軒出張所『2022年ベスト』
竹林軒出張所『2023年ベスト』

by chikurinken | 2019-12-30 07:40 | ベスト
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