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竹林軒出張所

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『よみがえる悪夢 1973年』(ドキュメンタリー)

よみがえる悪夢 1973年 知られざる核戦争危機
(2019年・NHK)
NHK-BS1 BS1スペシャル

第四次中東戦争の舞台裏

『よみがえる悪夢 1973年』(ドキュメンタリー)_b0189364_20315755.jpg 第四次中東戦争のとき、米ソの間で核戦争が起こりそうな危機的状況が発生したことを紹介するドキュメンタリー。
 1973年、エジプトが突然イスラエル領内に軍事侵攻し、イスラエル軍の主要兵器をことごとく破壊した。それまでの中東戦争でイスラエルに奪われた領土、そして石油精製施設を奪回するという目論見である。イスラエルは、突然の侵攻により大打撃を受けるが、その後、米国に軍事支援を受けることで反撃に転ずる。エジプトは逆に窮地に陥り、大統領のサダトは、ソ連に支援を申し出る。
 この時代、米国とソ連の間で、緊張緩和(デタント)が進んでおり、双方の首脳、ニクソン大統領とブレジネフ書記長の間にも信頼関係が確立されていた。この第四次中東戦争でも、ソ連が支援するエジプトと米国が支援するイスラエルという構図があったが、米ソの双方が仲介に乗り出し、停戦協定が結ばれる。ところがエジプト側が、停戦協定発効1時間前(報復ができない時間帯)にスカッドミサイルをイスラエル領内に打ち込んだため話がややこしくなる。このスカッドミサイル、核兵器を搭載できることから核弾頭に転じる可能性もあり、これがイスラエル・米側には、核攻撃も辞さないというエジプトの姿勢の表れと受け取られた。一方のイスラエルは、停戦合意後も攻撃を止めず、侵攻作戦を続けた。当時アメリカは、ウォーターゲート事件でニクソンが失脚の寸前で政権がうまく機能せず、キッシンジャー国務長官が代行して、エジプト・イスラエル間紛争の対応に当たっていた。そのため、ソ連側は、キッシンジャーのアメリカがイスラエルをそそのかした結果だと受け止め、キッシンジャーの裏切り行為と見なした。そのためブレジネフは、キッシンジャーに対して、イスラエルの即時停戦を求める書簡を出し、停戦なきときは武力も辞さないという強い文言をこれに記述する。
 この文言を脅迫と受け取った米側は、デフコン3という、核戦争準備体制を取り、さらに軍事力を中東に展開する。この措置に驚き怒りを憶えたブレジネフだが、当時ソ連で開催されていた国際平和会議の理念に則って、平和的なアプローチを採るために静観することにする。
 その後、ニクソンがソ連の消極的な対抗措置に対して「腰が引けている」みたいな発言をしたため、ソ連の上層部の怒りを買い、いよいよ緊張が高まり一触即発の状態になる。ただしソ連側が結局動きを見せなかったため、キッシンジャーもイスラエルの首相、メイアに即時停戦するよう圧力をかける。しかしメイアは、このまま引き下がることを国民が許さないということで断固拒否し、エジプト首脳との直接会談という条件(これは当時イスラエルを国として認めることになるため、アラブ諸国にとっては受け入れられない条件だった)付きでアメリカの申し出を受け入れることを表明。期限ギリギリになってエジプトのサダトがこの条件の受け入れを表明したため、何とか核戦争の危機が避けられた。この過程が、さまざまな資料を掘り起こした上で、研究者たちの口で語られ、時系列で紹介される。それぞれの首脳の立場も、彼らの手記や記録から掘り起こされ、紹介される。
 当時の首脳たちの問題点も指摘され、たとえばブレジネフが不眠のために睡眠薬を服用し薬物依存状態になっていたとか、緊急時にニクソンがストレスから酒を飲み泥酔していたとか(ニクソンはアルコールに弱かった)、あるいはサダトの短絡的性格や、研究者あがりのキッシンジャーの政治能力の欠如や傲慢さなどが紹介されて、非常に興味深いところである。また、国家同士の外交も、個人レベルで動いていることがわかって面白い。逆に無能な人間や頓馬な人間がトップに就いてしまうと、取り返しがつかない重大事が起こりうるということもよくわかる。
 僕個人の昔のイメージでは、ブレジネフが強硬派で、キッシンジャーが有能な政治家という印象だったが、必ずしもそうでないことがこのドキュメンタリーからわかる。もちろんこのドキュメンタリー自体、どれくらい信頼して良いかわからないが、複数の研究者の証言が出ていたため、現在の統一的な見解からはそれほど外れていないんではないかとも思う。
 いずれにしても、世界史の断片をマクロ的な視点だけではなく、ミクロ的な視点から切り取ったこういったドキュメンタリーの試みは貴重とも言える。2時間と長めのドキュメンタリーだったが、新しい視点を提供しながら歴史を整理するという目論見は達成されている。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『もうひとつのアメリカ史(5)〜(7)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『フルシチョフ アメリカを行く(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀 第9集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『映像の世紀プレミアム 第8集(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『青い募金箱(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ナイルの水は誰のものか(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-12-13 07:31 | ドキュメンタリー
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