日本の面影(1984年・NHK)
第一話 ニューオリンズから
第二話 神々の国の首都
脚本:山田太一
演出:中村克史、音成正人
音楽:池辺晋一郎
出演:ジョージ・チャキリス、檀ふみ、津川雅彦、小林薫、樋口可南子、加藤治子、杉田かおる、下条アトム、三ツ木清隆、柴田恭兵、佐野浅夫、加藤嘉、佐々木すみ江
江戸期、明治期の日本の情緒が再現される
明治期に来日し日本に帰化して、さまざまな著作を残したラフカディオ・ハーンを題材にしたドラマ。ハーンを演じるのは、『ウェスト・サイド物語』、
『ブーベの恋人』で有名なジョージ・チャキリス。アメリカでオーディションを敢行して、その結果決まったらしい。
第一話「ニューオリンズから」は、ハーンの来日前の話が中心。ニューオリンズ万博に訪れていた服部一三(津川雅彦)と西村重成(下条アトム)と出会い、それがきっかけになって来日するという運びになる。万博で目にした日本の文化や風習に多大な関心を抱いたことが直接的な動機である。来日後は松江に赴任することになるが、その前に横浜の街の描写、横浜で訪問した寺の描写が出てきて、日本の原風景が再現される。このあたりの記述はハーンの著書『知られぬ日本の面影』(現在
『日本の面影』として刊行されている)にも見える部分である。
第一話で特に印象的なシーンは、初めて迎えた松江の朝の情景で、これも『日本の面影』の「神々の国の首都」という箇所で描かれている(奇しくもこのタイトルが第二話のタイトルとして使われている)。つまり、早朝、米つきの音がどこからともなく聞こえてきて、これが大地の目覚めの鼓動のように聞こえる。やがて物売りの声が増えていき、次に宍道湖の漁師たちが日の出に向かって柏手を打つ音が広がっていく。それに続いて橋を渡る人々の下駄の音が徐々に増えていくという様子を感動的に描写している場面なんだが、これを実に巧みに映像化していて、このドラマの白眉の部分になっている。今回このドラマを見るのは2回目なんだが、このシーンは非常にはっきりと記憶していて、非常に印象的だったのは今回も同様である。もう一つ記憶しているのは、後に妻となるセツ(壇ふみ)がハーンに怪談を語って聴かせるシーンで、これは第二話から出てくる。

第二話「神々の国の首都」では、松江の中学に赴任し旅館暮らしを送るところから始まり、やがて旅館暮らしが嫌になって一人暮らしを始め、そこに女中としてセツが住み込むという風に話が進む。身の回りの世話は旅館では信(杉田かおる)が行っていたが、その後、後家のセツが担当するという具合に話が進んでいく。杉田かおるも壇ふみも素晴らしい存在感を持っており、ジョージ・チャキリスのハーンと互角に渡り合う。特に壇ふみの存在感は抜群で、武家の娘らしい品格を保ちながら、心の強さ、優しさを秘めた存在を演じきっている。どの登場人物も魅力的なのは、山田ドラマに共通する特徴だが、この壇ふみと杉田かおるが前半の主演賞、助演賞に匹敵する名演である。
第二話では、ハーンの著作『怪談』と『骨董』から「むじな」と「幽霊滝の伝説」がそれぞれピックアップされてドラマ化されている。どちらも登場人物(セツら)によって語られ、それをハーンが聴くという設定で、劇中劇として表現される。中でも「むじな」については、文楽人形で再現されるなど、非常に凝った演出が施されている。
この後、セツとの結婚、熊本への赴任と話が進むわけだが、今回見直してみて、全編見所満載で完成度の高いドラマであることが再確認できた。後半も楽しみだ。
第17回テレビ大賞優秀番組賞、第21回ギャラクシー大賞受賞
★★★★参考:
竹林軒出張所『日本の面影 (3)〜(4)(ドラマ)』竹林軒出張所『新編 日本の面影(本)』竹林軒出張所『美しき日本の面影(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』竹林軒出張所『怪談(映画)』竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その1(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その2(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『その時あの時の今 私記テレビドラマ50年(本)』竹林軒『「ラスト・サムライ」に見る「逝きし世の面影」』竹林軒出張所『ブーベの恋人(映画)』『日本の面影』OP主題曲