マイケル・ムーアの世界侵略のススメ(2015年・米)
監督:マイケル・ムーア
脚本:マイケル・ムーア
出演:マイケル・ムーア(ドキュメンタリー)
マイケル・ムーアの「よい国」
強国アメリカ在住のマイケル・ムーアが、強国の笠に着て他の国を侵略し、その国の良いものを持ち帰ろうとする、というコンセプトのドキュメンタリー。タイトルの「世界侵略」というのはそういう意味あいであり、早い話が、世界各国の優れた社会システムを取材して紹介するドキュメンタリーである。マイケル・ムーアのかつての作品、
『シッコ』とも共通する方法論と言える。
マイケル・ムーアが今回侵略(訪問)する国々は、イタリア(会社員の福利厚生)、フランス(充実した学校給食)、フィンランド(自由主義的な学校教育)、スロベニア(教育無料化)、ドイツ(充実した社会保障制度と過去の歴史への向き合い方)、ポルトガル(薬物合法化)、ノルウェー(刑務所事情)、チュニジア(女性解放)、アイスランド(女性主導の経済、政治)で、それぞれの美点を紹介すると同時に、それと対極にあるアメリカの現状を暗に批判する。しかも彼らの優れた制度の多くがアメリカが発祥という事実にも着目し、現在のアメリカ政治の体たらくを痛烈に批判している。
かつてフジテレビの深夜番組で『よい国』というバラエティ教養番組があった。いろいろな国の社会システムを紹介しながら、「よい国」の王様、ヨイI世がこの中から一番良さそうな社会システムを採用するという趣向の番組だったんだが、この映画もあれのドキュメンタリー版と言えるかも知れない。もちろんここで紹介された美点は、ある国の一面(良い面)に過ぎないんだろうが、理想的な政治システムを目指すという意味では、こういう一種の理想化もまた有効である。日本国もこういうところに登場してくれると嬉しいんだが、なにぶんここ20年アメリカ追随が甚だしく、アメリカ同様どんどん政治と社会が悪くなっている現状では、取り上げられるような題材自体もあまりない。
『シッコ』を見ても感じるんだが、社会福祉の充実こそ、国民の幸福、安心、安全に貢献するのだということが再確認できる。その社会を構成する多数の人々が幸せにならなければ、国の存在価値などないと言っても過言ではないのである。経済主導主義や愛国主義でごまかされてしまう人が多いのが現実であるが、そのあたりの基本に立ち返って考えてみたいものである。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『シッコ(映画)』竹林軒出張所『華氏119(映画)』