ねじとねじ回し
ヴィトルト・リプチンスキ著、春日井晶子訳
ハヤカワ文庫NF
焦点が定まっていないため
単なる雑学本で終わってしまった
かつて出版されたときに書評で取り上げられていて気になっていた本である。ねじとねじ回しが現代のテクノロジーにとってきわめて重要であり、近世では個人が旋盤を使ってねじを作ることが趣味になっていたなどという内容が紹介されていて、それに非常に興味を持ったのである。
そのときの記憶があったため、今回文庫版を書店で見つけてつい買ってしまったが、内容は期待に反してどうにも致し方ない。言ってみれば、先ほど書いた2点、つまりねじが現代のテクノロジーにとってきわめて重要であったということと、旋盤を使ってねじを作る趣味があったということ以外、ほとんど得るものがなかった。
著者は建築学の研究家で、ニューヨークタイムズの編集者から最高の道具についてエッセイを書いてくれと依頼され、このエッセイを書くに至ったということである。いろいろ調べていくうちにねじとねじ回しが歴史上最高の道具だという考えに至り、それについて歴史を掘り下げ紹介していくという本である。
動機からして随分いい加減で、しかも内容自体に大して面白味がない上、登場するいろいろな道具の用語がわかりにくいため(図版はあるがどれがどれに相当するかがわからない)、書いてある内容ももう一つピンと来ない。翻訳の文章は悪くはないが、文章自体のリズムが僕に合わない。核心になかなか触れず(というより核心がない)文章がダラダラ続くのも、読んでいて疲れる原因になる。そういうわけでほとんど内容について面白さを感じなかったのである。買ってしまったから最後まで何とか読んだものの、買う必要はまったくない本であった。買って損をしたと感じる本の類である。端的に言ってしまえば、あのとき読んだ書評だけで十分だったということになる(もっとも、内容のエッセンスを出し尽くしてしまう書評というのも考えものであるが)。
★★☆追記:
途中、ギリシャのアンティキテラ島沖の海底で見つかった古代ギリシャ時代の工芸品が紹介されていた。いわゆる「ギリシャ時代のコンピューター」である(
竹林軒出張所『古代ギリシャの"コンピューター"(ドキュメンタリー)』を参照)。この項はそれなりに面白かったが、このネタを見てもわかるように、全体的に取り上げる題材が散漫で、焦点が定まっていないというのがこの本の特徴である。
参考:
竹林軒出張所『いまに至る道 灯り(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『いまに至る道 ガラス(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『発明はいかに始まるか(本)』竹林軒出張所『世界をつくった6つの革命の物語(本)』竹林軒出張所『古代ギリシャの"コンピューター"(ドキュメンタリー)』