森毅ベスト・エッセイ
森毅著、池内紀編
ちくま文庫
決して「ベスト」ではないエッセイ集
数学者、森毅のエッセイをあちこちから集めてまとめたアンソロジー。
前に紹介した
『まちがったっていいじゃないか』からも6編収録されていて、内容については「森毅らしい」ものが集められているように思うが、中には適当に書き散らしたようなエッセイも散見され、アンソロジーの質としてはあまり高いとは言えない。一方で森毅自身がそういった文章をよく書いていた人であるということは本書から窺われる。他者を意識していないんじゃないかというような、自己満足的な記述の文章もある。文章の前提となっている事項(たとえば「現在の時空のとらえ方は、デカルトとニュートンに発すると考えられている」〈「時の渦」より、初出は『文學界』〉)を知らないために何を書いているのかよくわからない文章も非常に多かった。あるいは初出雑誌の読者層にとっては周知の話だったのかも知れないが、しかしそういう点を考えると、こういう作品はこういったアンソロジーに収録するものとしては不適切だとも言える。
全部で50編弱のエッセイが、タイトルの付いた4章に分けられているが、まとめ方にテーマの一貫性があるという感じでもない。森毅が直接接していた湯川秀樹や岡潔、遠山啓らの人となりを書いたエッセイは興味深かったが、こういったエッセイも別の章に割り振られていたりして、むしろ一貫性はないと言っても良い。まとめ方もそうだが、文章のテーマも質も、それから編集スタイルもすべてに物足りなさを感じ、正直言って買って損したと思わせられる本の類であった。少なくとも「ベスト・エッセイ」という看板は適切でない。
★★☆参考:
竹林軒出張所『一刀斎、最後の戯言(本)』竹林軒出張所『数学受験術指南(本)』竹林軒出張所『まちがったっていいじゃないか(本)』竹林軒出張所『数学の学び方・教え方(本)』