三鷹事件 70年後の問い
〜死刑囚・竹内景助と裁判〜
(2019年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集
ETV特集の「振り返る」シリーズ
相変わらず見応えがある
終戦直後に起こった国鉄三大ミステリー事件の1つ、三鷹事件について、その過程を追い、死刑囚として収監された竹内景助(その後、獄死)が無罪を主張するようになったいきさつを辿る。
1949年7月、2週間前に発生した下山事件の余韻も覚めやらない時期に、東京の三鷹駅で無人の列車が暴走し、大破するという事件が起こった。乗客はもちろん乗っていなかったが、列車が街の建物に激突したときにこれに巻き込まれた人々が、6人死亡し、20人が重軽傷を負った。当初は、当時大幅な人員削減を目指していた国鉄当局と激しく対立していた国鉄労組の仕業とされ、労組のメンバー11名が逮捕された。このうち10名は共産党員で残りの1名が非共産党員。そして最終的に有罪判決が出されたのが、この非共産党員の竹内景助のみだった。
一審では、竹内の単独犯とされ、武内に無期懲役判決が出された(他のメンバーは無罪)が、上告審でこれが死刑判決に変わる。竹内は当初、罪状を否認していたがやがて自分の単独犯であると自供し、結局その証言がそのまま採用されることになった。共産党員が無罪になったのは、日本共産党が大弁護士団を構成して裁判に当たったためだという。結果的に竹内だけがスケープゴートになったのだった。
とは言え、証拠は竹内の自供と目撃証言だけであり、真相はほとんど闇の中である。しかもその後、竹内は無罪を主張するようになり、証言も強要された可能性が非常に高く(他の逮捕者の証言もこのドキュメンタリー内で紹介されている)、しかもアリバイもあった可能性が高い。また、当局あるいはGHQがこの事件に関与しているのではないかと疑わせるような事実も明らかになっている。
そういうこともあり、近年、竹内景助の長男が再審請求をしたんだが、先日、東京高等裁判所によって、再審請求を認めないという決定がくだされた。これが現在までのいきさつである。
こういったいきさつを時系列でまとめ、また関係者のインタビューも交えた上で構成されたドキュメンタリーである。他の同様のテーマのETV特集と同様、まとめ方が非常にうまく、見応えがあってしかも内容を把握しやすい。三鷹事件の過程や問題点が明確になり、何が問題になっているのかがよくわかる。今年は、三鷹事件から70年という節目であり、そのためにこの作品が作られたんだろうが、当事者たちが一人二人と死去していく中で、今一度過去の記録をまとめて、問題点を明らかにしておくというのは大変価値がある仕事である。内容自体はウィキペディアに載っているレベルのものであったが、しかし証拠映像としてこういう形で残した点はやはり大きな価値があると言える。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『未解決事件File.10 下山事件(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『砂川事件 60年後の問いかけ(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『連合赤軍 終わりなき旅(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『北朝鮮 “帰国事業” 60年後の証言(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『引き裂かれた海(ドキュメンタリー)』