シルクロード 絲綢之路 第1集「遙かなり長安」
(1980年・NHK)
NHK総合 NHK特集
教養主義を体現したようなシリーズだったナ……
1980年にNHKで放送された紀行ドキュメンタリー。
1978年に日中平和友好条約が締結されており、日中友好ムードが漂っていた時代である。そういう折にNHKは中国当局と交渉し、シルクロード周辺の文化を撮影する許可を取り付けた。当時、中国の辺境地域に入るのは、外国メディアとしては初めてのことだったらしい。そういうこともあってNHKはこの取材にかなりのエネルギーを投じており、相当な力の入れようだったことが、その頃高校生だった僕にも伝わってきた。
僕自身は当時、中国史に興味を持っていたこともあり、大変期待してこの番組を見た記憶があるが、実際は見てみてちょっと失望したのであった。要は見たいものがあまり出てこないというような感じである。この第1集は、長安(今の西安)がテーマであるにもかかわらず、かつて世界最大の都市で日本をはじめ世界中の憧れであった長安の往年の姿があまり紹介されない。出てきたのは華清池と大雁塔ぐらいで、物足りないったらありゃしない。空撮なんかも敢行しているのに、長安城のごく一部しか見せないなど、何をやっているのかと(今見てみて)言いたくなる。最初の放送時はあまりそういうことにも気付かなかったが、少なくともこのシリーズに物足りなさを感じていたのは確かである。
ただこの第1集では、始皇帝陵のすぐ近くで当時発見されたばかりの兵馬俑坑が紹介されていたのが斬新だった。こちらも外国のメディアが撮影するのは初めてで、日本に映像で紹介されたのもこれが初めてである。だが結局、テーマが長安であるにもかかわらず、兵馬俑がほぼ唯一の目玉みたいになってしまったのが、このドキュメンタリーの限界なのではないかと、今見ると思う。結局のところ、シリーズ全体を通じてあまりテーマが定まらず、シルクロードを辿って面白い話題を拾ってみたというようなシリーズになってしまっていた。そのため、僕自身も飽きてしまって途中から見なくなった。
内容は非常に堅く、随所に漢詩が紹介されたり、あるいは「……だったのである」みたいなナレーション(ナレーターは石坂浩二)が入ったり、今放送されたら多くの視聴者からそっぽを向かれそうである。ナビゲーターを作家の陳舜臣が務めていたため、もしかしたらスクリプトにも絡んでいたのかも知れないが、どこか教養主義的な匂いが漂う。だが、やたら背伸びしていた高校生の僕は、この番組を通じて漢詩を一編憶えたのであった(王維の七言絶句「渭城の朝雨軽塵を浥ほし 客舎青青柳色新たなり……」ってやつ)。意味を把握していたとは言えないが、今回その舞台になった渭水をあらためてこの番組で見て、その意味するところが掴めたような気がする(記憶にはなかったが、この漢詩の背景はちゃんと番組内で紹介されていた)。高校生の僕にはちょっと難しすぎたようだが、それでも背伸びをするのも大事だと今になって思う。そういう点では教養主義も捨てたもんではない。
第18回ギャラクシー賞・選奨受賞
★★★参考:
竹林軒出張所『アイアンロード(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『アフガン秘宝の半世紀(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『日中外交はこうして始まった(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『フレスコ画への招待(本)』竹林軒出張所『世界史とつなげて学ぶ中国全史(本)』