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竹林軒出張所

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『沈黙 SILENCE』(映画)

沈黙 SILENCE
(1971年・表現社、マコ・インターナショナル)
監督:篠田正浩
原作:遠藤周作
脚本:遠藤周作、篠田正浩
撮影:宮川一夫
音楽:武満徹
出演:デイヴィッド・ランプソン、マコ岩松、ダン・ケニー、岩下志麻、丹波哲郎、戸浦六宏、岡田英次、三田佳子


あらゆる面で一級品、質が高い

『沈黙 SILENCE』(映画)_b0189364_21505353.jpg 遠藤周作の小説『沈黙』を映画化したもの。原作者の遠藤周作は、本作の脚本にも関わっていて、しかも原作を多少改変しているらしい。なお、この原作、2016年にマーティン・スコセッシも映画化している。
 (おそらく江戸時代の話で)キリスト教が禁止されている日本の長崎にマカオからやってきた2人のイエズス会神父、ロドリゴとガルペが、禁教体制の中でどうなっていくかというストーリーである。予想通り「転び」がテーマになるわけだが、転ぶかどうかという点だけでなく、ロドリゴと案内人のキチジローの関係がイエスとユダを彷彿させるものであったり、ロドリゴの師匠であるフェレイラが「キリストならばこう振る舞う(転ぶ)」などと主張したりするあたりなど、かなりの深遠さを感じさせる話である。
 宮川一夫が撮影を担当しているせいか、ロドリゴがさまようシーンは非常に映像が美しい。ただし全体に映像が暗く、劇場で見る分には良いかもしれないが、ビデオで見るとほぼ真っ暗というシーンが結構長く続いた。
 ロドリゴを演じるのはデイヴィッド・ランプソンという人で、無名の俳優だが、なかなか好演している。日本語アクセントもしっかりしていて、会話にリアリティがある。ポルトガル人宣教師、フェレイラを演じるのは、なんと丹波哲郎で、バタ臭い顔ではあるが、やはり日本人っぽさは残る。ただし顔がはっきりと映されるシーンはあまりなく、そのあたりが演出側の工夫なのかも知れない。セリフでは日本語と英語の両方を使い分けており、うまいこと演じていると思う。またキチジローを演じる俳優は、マコ岩松という日本では無名の役者だが、当時ハリウッドで活躍していた俳優らしい(アカデミー助演男優賞の候補になったこともある)。この映画では製作もやっているらしく、製作会社のマコ・インターナショナルはマコ岩松が設立した会社である。他の俳優、戸浦六宏や岡田英次は、言うまでもなく存在感抜群。
 この映画、あらゆる面で良くできているが、中でも音楽が強烈な印象を残す。冒頭に流れるテーマ曲がスペイン風のギター曲だが、ここでグッと心をわしづかみにされる。で、音楽担当は誰だと思ったら、案の定、武満徹だった。本編内で使われている音楽もことごとく質が高く、しかも映像の邪魔をしないのは武満作品らしい。
 この映画、原作、脚本、演出、撮影、音楽とどれも一級品であり、非常に質の高い作品である。スコセッシ版も見てみて、比べてみたい気もする。また、(改作されていないオリジナルの)原作にも大変興味が沸くところである。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『桜の森の満開の下(映画)』
竹林軒出張所『キャメラマンMIYAGAWAの奇跡(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『奇跡の丘(映画)』

by chikurinken | 2019-10-04 06:50 | 映画
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