おっぱいと東京タワー 私の乳がん日記
(2009年・エフ・エフ)
フジテレビ ザ・ノンフィクション
ある女性ディレクターの映像日記
テレビ番組製作会社(エフ・エフ)に勤める信友直子というディレクターによるドキュメンタリー。撮影対象は自分自身で、そのためにタイトルに「日記」という言葉がついている(のだろう)。元々フジテレビの『ザ・ノンフィクション』枠で放送されたもので、好評だったことから、その後単発でも公開されることになった。
仕事に没頭していたこともあり40台独身という身の上の信友氏。本人は自虐的に、自分のことを「負け犬」などと言っている。そんな折、43歳になったときに子宮筋腫が発覚し手術を受ける。しかもその翌年、インドで列車事故に遭い大腿骨骨折、さらにその翌年、乳がんが見つかるという3年連続の厄続きで、なぜ自分だけがこんな目に……と自問しながらも、そのガン闘病を自撮りしてドキュメンタリーにしたのがこの作品。自らをさらけ出して1本のドキュメンタリーを作るという作家の鑑のような人である。その後、このドキュメンタリーにも登場する母が、認知症と診断され、その様子を撮影したドキュメンタリー(
『ぼけますから、よろしくお願いします。』)も作り、これが話題になったのが数年前。現在、非常に注目されているドキュメンタリー作家である。
乳がん自体は、転移もしておらずしかもその後消失するため、近藤誠のいわゆる「がんもどき」ではないかと思うが、それでも信友氏は、放射線治療、抗ガン剤治療、外科手術のフルセットを受け、髪は抜け落ち、乳房も縮小する。乳房がなくなることについては最後の最後まで抵抗を見せるが、結局手術を受けることを決心。結果的には切除部がそれほど大きくなかったため、「胸が陥没」みたいなことはなく、一安心したようである。その後、抗ガン剤の副作用に苦しみながらも社会復帰し、仕事にも戻ることができた。ただ、3年連続の不幸を作品として昇華したわけだから、今から考えると御の字とも言える。「人間万事塞翁が馬」ってことである。
作品自体は、編集がうまいせいかテンポが非常に良いため、見ていて飽きることもなく、そういう点でもよくできたドキュメンタリーと言える。何よりも自分自身を曝け出すというそのプロ根性が立派である。拍手パチパチである。
NYフェスティバル銀賞、ギャラクシー賞奨励賞受賞
★★★☆参考:
竹林軒出張所『ぼけますから、よろしくお願いします。(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ぼけますから、よろしくお願いします。~おかえりお母さん~(映画)』竹林軒出張所『これでもがん治療を続けますか(本)』竹林軒出張所『がん放置療法のすすめ(本)』竹林軒出張所『エンディングノート(映画)』竹林軒出張所『夫婦別姓(ドキュメンタリー)』