ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

『完全再現!黄金期のフランス古城』(ドキュメンタリー)

完全再現!黄金期のフランス古城
(2018年・仏Peignoir Prod)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

実に面白い……プロジェクト

『完全再現!黄金期のフランス古城』(ドキュメンタリー)_b0189364_19290621.jpg フランス、ブルゴーニュの森の中に、中世の城(「ゲドロン城」)を中世の素材、技術だけで再建しようというプロジェクトが1998年に始まった。素材は、中世と同じものを使うことになっているが、厳密に言うと、この城の周囲3km以内で採れるものに限定するという凝りようで、森の木から建築素材と道具、土から瓦や焼き物、石や岩から建築素材や金属という具合にすべてをそこで調達する。道具も12、13世紀に使われていたものを再現しており、このあたり、西岡常一の法隆寺修復工事を彷彿させる(竹林軒出張所『宮大工西岡常一の遺言(本)』参照)。だがこの城の工事に対する徹底度はそれをも上回るような気がする。このプロジェクト、25年かかる予定で城はまだ完成していないが、このドキュメンタリーでは、このプロジェクトの背景と現在の進行状況を紹介している。
 先ほども言ったようにすべてが現地調達という原則であるため、釘を作るにしても、近隣の岩から鉄鉱石を探し出して、現場に作った溶鉱炉で鉄を精錬するというプロセスを経る。モルタルにしても、近隣で探し出した石灰石から生石灰を精製し、近隣の砂と混ぜて作り出す。また道具についても、当時の記録に従って人力で動かせるクレーンを作ったり(巨大な輪の中に人が入って歩くことで輪を回す装置。これが非常に印象的)、必要であれば橋や足場を架けたりもする。その上で、橋については釘を使わずに木組みだけで作った方が長持ちするなどという結論が得られる。
 こういうことを考えると、このプロジェクト自体、全体的にどこか学術的な香りがするんで、学術機関や行政組織が関わっていることが容易に想像できる。職人も中世風の格好をして中世風の仕事をしているわけで、この撮影のためにこういう格好をしたのかも知れないが、どこかテーマパーク風でもある。職人の人たちもそれぞれ教育がありそうで、いかにも学術プロジェクトという印象も漂う。
 現在の日本でも城の再建は当時の工法で行わなければならないというように本物志向になっているが、その先取りになっているかのようなこの「ゲドロン城」プロジェクト、大変興味深いところである。しかし先ほども言ったようにまだ完成しているわけではなく、また建造以前の森の状態も紹介されていなかったし、建造途中の映像などもなかった。つまり現状報告のみだったため、そのあたりが少々物足りない。興味深いプロジェクトであるため、いずれ完成したらまとまった形で記録映像が出てくるだろうとは思うが、このドキュメンタリーについては、その予備知識を提供する程度のもので終始していてそのあたりが残念な部分である。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『宮大工西岡常一の遺言(本)』
竹林軒出張所『鬼に訊け 宮大工 西岡常一の遺言(映画)』
竹林軒出張所『桂離宮 よみがえる日本の美(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-06-12 07:28 | ドキュメンタリー
<< 『「古今和歌集」の創造力』(本) 『ダビンチ 幻の肖像画』(ドキ... >>