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竹林軒出張所

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『ダビンチ 幻の肖像画』(ドキュメンタリー)

ダビンチ 幻の肖像画
(2018年・仏ZED & SYDONIA他)
NHK-BS1 BS1スペシャル

ダビンチはこんな顔だった……のか

『ダビンチ 幻の肖像画』(ドキュメンタリー)_b0189364_17113766.jpg ある美術史家がとある肖像画(テンペラ)の鑑定を依頼されるところから、このドキュメンタリーは始まる。依頼主は、このガリレオの肖像画をオークションに出そうと思っている……と言うが、この美術史家は「ガリレオ? とんでもない、レオナルド・ダ・ビンチの肖像画ですよ」と答える。
 こうして、2008年、レオナルド・ダ・ビンチの肖像画と疑われる作品が世の中に出てくる。なぜレオナルドの肖像だと判断されたかというと、イタリアのウフィツィ美術館にこれとよく似た肖像画があり、しかもそれが長年に渡ってレオナルド・ダ・ビンチの自画像とされていたためである。だがこのウフィツィの肖像画(「ルカーニアの肖像画」と呼ばれている)、年代鑑定の結果、レオナルドの死の100年後に描かれたことが証明された。ということは、この絵が描かれた当時、オリジナルの肖像画が存在しており、この肖像画がそれを模写した複製画である、という見方もできる。
 とすると、今回出てきたのがそのオリジナルなのか……ということになる。そこで科学的な調査を進め、まず、この絵がいつ描かれたか判断するという手順に進む。
 まず最初に、使われている絵の具の解析を行う。それによると、肖像画に描かれている羽根飾りの部分以外は、すべてルネサンスの時代のものであることが判明する。羽根飾りからは、20世紀になって使われるようになった二酸化チタンが検出されたが、これは後世の修復の際に書き加えられたものである、と判断された。
『ダビンチ 幻の肖像画』(ドキュメンタリー)_b0189364_17114647.jpg 次に絵が描かれているパネルの素材について鑑定される。その結果、この素材がポプラであることが判明する。これもルネサンス時代によく使われた素材(モナリザにも使用されている)である。また炭素年代測定により、この木が15世紀後半から16世紀初頭に伐採されたものが判明した。
 さらにパネルの裏側に、鏡文字で「PINXIT MEA」と書かれていることがわかった(ダビンチが鏡文字を頻繁に使っていたことは有名)。「PINXIT MEA」とは、拙いラテン語で「彼が私自身を描いた」というような意味らしい。これも、ラテン語の素養があまりなかったダビンチの背景とよく付合する。さらに筆跡鑑定によっても、この文字がダビンチの手稿の文字と非常によく似ていることがわかる。しかも、暗い色調、毛髪の描写、スフマート、左右の目の視線のずれなど、ダビンチの他の作品と共通するさまざまな特徴も見られる。
 ではこれがダビンチの手になる絵だとして、果たして自画像なのかということが、新たな問題になる。
 これを見極めるために、現在英国に残されている、弟子のメルツィが描いたというダビンチの横顔の肖像画(ダビンチの唯一の肖像画とされている)と、今回出てきた「新・ルカーニアの肖像画」に映されている容貌を比較し検証することになった。その結果、顔の作りが両方の肖像画でかなり近い(「人相の共通点が見つかる」と表現されていた)ということも判明する(ダビンチが顔の寸法を実際に計測して肖像画を描いていたことは有名らしい、このドキュメンタリーによると)。
『ダビンチ 幻の肖像画』(ドキュメンタリー)_b0189364_17114389.jpg さらに「新・ルカーニアの肖像画」に残された指紋(絵の表現のために指を使っているため表面に指紋が残されている)を調査し、その作者の親指の指紋を再現。これが(ダビンチ作とされているの他の作品〈「白貂を抱く貴婦人」〉から)再構築された指紋と一致していることが判明したようである(このあたりは非常に曖昧な表現だったため、はっきりしたのかどうかがはっきりしない)。
 以上のような鑑定を経て、「新・ルカーニアの肖像画」はダビンチ作品であり、しかもダビンチの自画像である可能性が高い、という結論に落ち着いたようだ(このあたりも曖昧な表現だった)。
 その後、後の時代に付けられたと思われる羽根飾りの部分やニスを除去して、完全に元の絵が復元されたのであった。
 このドキュメンタリーでは、上記のような美術作品の鑑定の過程をかなり詳細に紹介すると同時に、レオナルドの生涯も、それと同時進行で再現映像を交えて紹介する。そのためこの絵の背景だけでなく、レオナルドの生き様や作品まであわせて堪能できるようになっている。そういう意味でもよくできた面白い作品だったが、ところどころ(結果を整合させるための)ごまかしのような箇所があり、もしごまかしでなければ(曖昧な表現ではなく)このあたりをはっきりさせて欲しかったところである。
 通常であれば『BS世界のドキュメンタリー』で放送されるような内容の番組であったが(放送の形式も非常によく似ていた)、今回はBS1スペシャルで放送された。どういう理由なのかはわからない。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『二枚目のモナリザの謎(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『指名手配:バンクシー(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『フェルメール盗難事件(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-06-10 07:11 | ドキュメンタリー
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