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竹林軒出張所

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『桜の森の満開の下』(映画)

桜の森の満開の下(1975年・芸苑社)
監督:篠田正浩
原作:坂口安吾
脚本:富岡多恵子、篠田正浩
撮影:鈴木達夫
美術 : 朝倉摂、内藤昭
音楽:武満徹
出演:若山富三郎、岩下志麻、伊佐山ひろ子、西村晃、観世栄夫

結構えげつないストーリーだが
説話風で淡々としているからか
グロさは感じない


『桜の森の満開の下』(映画)_b0189364_18010868.jpg 坂口安吾の同名原作小説を映画化した作品。監督は篠田正浩で主演は妻の岩下志麻。それから若山富三郎である。
 舞台は平安時代か鎌倉時代ぐらいの都、およびその周辺で、ストーリー自体は説話集を思い出させるようなもの。そもそも冒頭のシーンが『今昔物語集』を題材にした『羅生門』風であるし、僕はてっきり元になった話が説話集にあるものと思っていた(実際は坂口安吾のオリジナルのようだ)。
 ある山賊が、通行人から奪い取って妻にした美貌の女に心を囚われてしまい、この女を喜ばすために盗みや殺しを繰り返すというようなストーリーである。タイトルは、満開の桜の下で人は狂気を帯びるというモチーフが基になっている。話の中には生首が多数出てきて(しかもそれを映像化しているため)結構猟奇的でグロテスクなんだが、映画ではむしろコミカルな印象さえ受け、あまりグロさは感じない。
 主演の岩下志麻は、一本調子のセリフ回しだが、セリフのほとんどが命令なんで違和感はない。一方で彼女の美しさを引き立たせるカメラワークが見事である。山賊役の若山富三郎は言うまでもなく好演で、この頃はテレビにもよく出ていて存在感のある役を演じていたという記憶がある。いわば全盛期の演技である。他のキャストについては伊佐山ひろ子以外はチョイ役ばかり。噺家の笑福亭仁鶴までチョイ役で出ていた。
 山の風景や都の風景の映像が随所に出てくる他、都の再現も大変よくできていて、映像的にも大いに楽しめる。武満徹の音楽もかなり独特だが、ストーリーをまったく邪魔しないのは(毎度ながら)さすがである。総じてよくできた翻案映画と言うことができる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『沈黙 SILENCE(映画)』
竹林軒出張所『明治開化 安吾捕物帖(本)』
竹林軒出張所『新十郎捕物帖 快刀乱麻 (25)(ドラマ)』
竹林軒出張所『羅生門(映画)』
竹林軒出張所『秋刀魚の味(映画)』
竹林軒出張所『婉という女(映画)』
竹林軒出張所『美しく狂おしく 岩下志麻の女優道(本)』

by chikurinken | 2019-06-03 07:00 | 映画
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