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竹林軒出張所

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『"脱プラスチック"への挑戦』(ドキュメンタリー)

"脱プラスチック"への挑戦
〜持続可能な地球をめざして〜

(2019年・NHK)
NHK-BS1 BS1スペシャル

「脱プラスチック」は喫緊の課題のようだ

『\"脱プラスチック\"への挑戦』(ドキュメンタリー)_b0189364_20161523.jpg 先進国で進展している「脱プラスチック」へのアプローチを紹介する100分のドキュメンタリー。
 マイクロプラスチックの海洋汚染については、過去、別のフランス製のドキュメンタリー(竹林軒出張所『海に消えたプラスチック(ドキュメンタリー)』を参照)でも取り上げられていたが、このドキュメンタリーは、あれの日本版という趣である。
 前後編の2部構成になっており、前半は、17歳の少年が始めたオランダのNPO、オーシャンクリーンアップの海洋プラスチック回収の試み、後半は、海外の行政組織によるプラスチック容器禁止の流れを紹介する。言い換えると、前半が既存のプラスチック・ゴミの除去、後半がゴミ・プラスチックの発生の遮断がテーマということになる。
 現代社会でプラスチック製品が溢れているのは、今さら言うまでもない事実である。流行りのカフェに行っても飲料がプラスチック容器で出されるし、店に行っても何でもかんでもプラスチック袋に入れられてしまう。こういったプラスチック製品のかなりのものが、一度しか使用されない、廃棄されるのが目的であるかのような製品と言える。このような容器や袋は、言ってみればゴミを生産していると言っても過言ではなく、それを考えればプラスチック・ゴミが増えるのは当然である。日本ではこういったプラスチックの多く(80%以上)がリサイクルされていると喧伝されているが、実態は、その多くが焼却処分されている。これを日本では「エネルギー・リサイクル」などと呼んでリサイクル対象として扱われているらしいが、世界の(というより一般的な)常識ではこれは「リサイクル」ではない。「リサイクルされる」という文句が、消費者にとって免罪符のような働きをし、プラスチックを使うことに抵抗がなくなるため、こういう呼び替えはある意味犯罪的と言える。このように日本では、真の意味でプラスチックのリサイクルは進んでいない。そもそもプラスチックのリサイクル自体、手間も費用もかかるため、あまり現実的ではないのである。そのため一番良いのは端から使わないということになる。我々が子どもの時分は、これほどプラスチックが周りに溢れていなかった(ペットボトルだって存在していなかった)わけで、それを考えると、使い捨てプラスチックを無くしたところで、それほど不便になるわけではないのである。それでも、今の過剰に「便利」なシステムを捨てるのは、文明に逆行しているように思われるのか知らんが、消費者にとって抵抗が大きく、実現はなかなか難しいようである。
 京都の亀岡市が最近、レジ袋を禁止する条例を制定したが、この話を聞いたとき、僕自身、素晴らしいことだとは思いつつ、ちょっと拙速ではないかと感じてしまった。しかし世界のスタンダードはもっと先に進んでいるのだということが、このドキュメンタリーからわかる。フランスやニューヨーク市では、すでに同様の使い捨てプラスチック禁止を打ち出していて、施行に向けて動いているらしいのである(近日施行予定)。このことを考えあわせると、亀岡のケースでさえまだ保守的に感じられるほどである。当然、保守主義の代表みたいな日本政府がこういった取り組みをすぐに行うことはおそらくないだろうが、民間レベルで言うと、ある日本の企業がプラスチックを完全にリサイクルする技術をすでに開発しているという。そしてその企業が海外の企業や自治体から注目を集めている様子もこのドキュメンタリーで紹介される。さらに言えば、このようなプラスチック禁止の動きは、経済的にも新しいビジネス・チャンスに繋がるのだという話もあわせて紹介されている。
 プラスチック・ゴミが「第二の温暖化」とされるほど重大な問題であることは徐々に明らかになっており、この作品は、そのことを認識させるドキュメンタリーで、プラスチック・ゴミの現在の立ち位置をよく伝える番組である。ただし前半のオーシャンクリーンアップの取り組みについては、確かに若者がムーブメントを起こしたという点で素晴らしいことではあるが、彼らの取り組みが海洋のプラスチック汚染に実際にどの程度対応できるかは未知数(というより実際には大海の一滴みたいなレベル)で、それを考えると「象徴」としての意味合いしかないんじゃないかと思う(もちろんそれは大切ではあるが)。そういう点でオーシャンクリーンアップの取り上げ方が少々大げさすぎるような気がして、前半と後半にアンバランスさを感じた。この作品の製作者に対して、現実を見よと言いたくなってくる。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『海に消えたプラスチック(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『廃棄家電の悲しき行く末(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『グレタ ひとりぼっちの挑戦(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2019-05-16 07:15 | ドキュメンタリー
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