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竹林軒出張所

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『日本人の質問』(本)

日本人の質問
ドナルド・キーン著
朝日文庫

朝日版ドナルド・キーン・エッセイ集

『日本人の質問』(本)_b0189364_16251352.jpg 日本文学者、ドナルド・キーンのエッセイ集。表題作「日本人の質問」、「日本人の投書」、「入社の弁」は朝日新聞の連載、または紙上で発表されたエッセイだと思うが、残りについては初出が書かれていないため不明である。なお上記の3作は「Ⅰ」に分類されており、都合「Ⅳ」まである。詳しくはわからないが、「Ⅱ」が日本文化や日本文学についての講演やエッセイ、「Ⅲ」が芸術関係のエッセイ、「Ⅳ」が仏教や宗教に関するエッセイのようである(ただし「Ⅳ」には山片蟠桃についてのエッセイもあり一概に宗教と言えるかどうか微妙である)。元々は朝日新聞社から出されたエッセイ集のようだが、初出の記録がないのはあまり感心しない。
 一番面白かったのは「Ⅱ」の講演録で、中でも「日本古典文学の特質」が非常に充実していた。内容は『日本文学史 近世篇〈一〉』と一部重複しているため、『日本文学史 近世篇〈一〉』の発表前後に行われた講演が出典ではないかと思われる。また同じく「Ⅱ」の「明治の日記」についても、『百代の過客〈続〉』のダイジェストのような内容で、おそらく『百代の過客〈続〉』の発売前後に朝日新聞に書かれたエッセイではないかと思う。
 後は「Ⅱ」の講演録「日米相互理解はどこまで進んでいるか」と「Ⅲ」の「谷崎源氏の思い出」が興味深い内容であった。後者については、谷崎源氏(谷崎潤一郎が翻訳した源氏物語)を読んでみたいと感じさせるような内容充実のエッセイである。
 多少寄せ集めの感があるが、それでもやはりドナルド・キーンの作らしく、目を引く叙述が多い。最初のエッセイの「日本人の質問」についても、一般的な日本人はこういうのが割合好きなんで、これだけを取ってみても(ドナルド・キーンに興味のない)普通の人は楽しめるかも知れない。少なくとも『日本語の美』よりは読み応えがあった。
★★★☆

追記:
 昨日(2019年2月24日)ドナルド・キーン氏が亡くなったという報道があった。享年96歳。随分お年だったし、まもなくお召しが来るのではと思っていたのでさほど驚きはないが、氏が非常に優れた研究者であったことに疑いの余地はない。
 僕は一昨年あたりからキーン氏の著書を読み続けているが、以前も書いたように「目からウロコ」の書が多い。現在も『日本文学史 近世篇〈二〉』を読んでいるところで、氏が亡くなっても、読むものに事欠くことはしばらくはないが、それにしても(著書からお見受けする限り)大変立派なお方であり、また超一流の日本文学研究者である。これは間違いない。謹んでご冥福をお祈りしたい。

参考:
竹林軒出張所『日本文学史 近世篇〈一〉(本)』
竹林軒出張所『百代の過客〈続〉(本)』
竹林軒出張所『百代の過客(本)』
竹林軒出張所『日本人の美意識(本)』
竹林軒出張所『ドナルド・キーン自伝(本)』
竹林軒出張所『Chronicles of My Life(本)』
竹林軒出張所『私と20世紀のクロニクル(本)』
竹林軒出張所『ドナルド・キーン わたしの日本語修行(本)』
竹林軒出張所『日本語の美(本)』
竹林軒出張所『私が愛する日本人へ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ニューヨーク・タイムズのドナルド・キーン(本)』
竹林軒出張所『江戸の宇宙論(本)』

by chikurinken | 2019-02-25 07:24 |
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