ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

『私家本 椿説弓張月』(本)

私家本 椿説弓張月
平岩弓枝著
新潮文庫

『椿説弓張月』の雰囲気を味わえる

『私家本 椿説弓張月』(本)_b0189364_15583180.jpg 曲亭馬琴の『椿説弓張月(ちんせつゆみはりづき)』を平岩弓枝がアレンジした小説。
 『椿説弓張月』は鎮西八郎為朝(源為朝)の大冒険譚で、九州、京都、伊豆大島、四国、琉球を舞台にした壮大なスペクタクル巨編である。源為朝は源為義の八男(源義朝の弟)で、保元の乱に際して朝敵になり結果的に伊豆大島に流されるが、伊豆を実質的に支配したため、国司の恨みを買って追討されたというのが史実である。『椿説弓張月』では、この実話を踏まえた上で、為朝が理性と正義の豪傑であり、行く先々で正義を貫くが、歴史に翻弄されてあちこちをさまよい歩き、各地域の悪人と対峙していくというようなストーリー展開になる。
 この『私家本』についても馬琴版『椿説弓張月』を大体において踏襲しているらしく、細かな違いはあるが、概ね『椿説弓張月』の雰囲気は味わえるようだ。僕は今回、先日読んだ『現代語訳 南総里見八犬伝』と同じような感覚でこの書に当たったわけだが、流行作家が書いたものだけに非常に読みやすかった。ストーリーは勧善懲悪かつ荒唐無稽で、必ずしも手放しで称賛できるものではないが、ハリウッド映画的な面白さはある。単純なドラマが好きな人には格好の読みものになるかも知れない。
 例によって登場人物も大量に現れ、わかりにくくなる箇所もあるが、『八犬伝』に比べれば登場人物の数ははるかに少ないこともあり、まだましな範囲である。正しい人、正しくない人がはっきりと分かれているため、そういう点でもわかりやすい。馬琴の作を読んだとは言えないが、読んだような気にはなる。源為朝のこともまったく知らなかったので教養にもなった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『ビギナーズ・クラシックス 保元物語・平治物語(本)』
竹林軒出張所『寿の日(ドラマ)』
竹林軒出張所『現代語訳 南総里見八犬伝 (上)(本)』
竹林軒出張所『現代語訳 南総里見八犬伝 (下)(本)』
竹林軒出張所『春色梅児誉美 マンガ日本の古典31(本)』

by chikurinken | 2019-02-23 07:58 |
<< 『日本人の質問』(本) 『歎異抄 (現代語訳版)』(本) >>