アウラ 未知のイゾラド 最後のひとり
(2018年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル
民族と言語が消える瞬間 ブラジルのジャングルの中で、いまだ文明と出会わず、自然に根付いた生活を送っている先住民をイゾラドと言うらしい。こういったイゾラドが、森林開発の結果「文明人」と出会うことがあり、その結果、まだ未知の先住民が存在することが明らかになる。
1987年に、森林開発を進めていた植民者たちが2人組のイゾラドに出会った。このイゾラドは、アウラ、アウレ(ブラジル政府がつけた名前)という男たちで、独自の言語で話しており、先住民語の研究家たちにもその内容が理解できなかったため、コミュニケーションにも困っていた(その後、ノルバウ・オリベイラという言語学者が簡単な名詞だけを理解できるようになった)。この類のイゾラドは、基本的にブラジル政府によって保護され、保護地のジャングルに送られるらしいんだが、このイゾラドについてはナタで「文明人」を殺害したりしたため、あちこちを点々とさせられ、結局今住んでいる地域に移された。オリベイラも近所に住んでたまに彼らとコミュニケーションをとっていた。ところがその後、アウレがガンで死去し、アウラが一人だけ残された。同じ部族はすでにジャングルに存在していないため、彼らが話している言語は、これでほぼ絶滅してしまった。話す相手がいなければ言語の役割はなくなるのである。しかもこのアウラの言葉をわかる人すらほとんど存在しない。よって彼らが持っている部族の記憶も消えることになる。
このドキュメンタリーでは、アウラが独り語りする映像が出て、その独り語りからは、彼らの部族が、銃で武装した「文明人」に襲われて彼ら二人だけが生き残ったことが窺われるが、ブラジル政府の記録にはこういった記録は残っていないというのだ。結局、彼らの部族の知識も知恵も、そしてその存在自体もすべてが失われることになる。
現在、世界中で言語のグローバル化が進んでいることもあり、ローカルな言語がかなりの勢いで失われているらしいが、その1つの過程を目の当たりにできるのがこのドキュメンタリーである。言語がそして民族が消滅する瞬間に立ち会うことになるわけで、そういった意味でこのドキュメントは非常に貴重な記録と言わざるを得ない。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『大豆が先住民を追いつめる(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『遠い祖国 前・後編(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『イヌイットの怒り(ドキュメンタリー)』