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竹林軒出張所

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『河童の手のうち幕の内』(本)

河童の手のうち幕の内
妹尾河童著
新潮文庫

つまみ食いが適した読みもの

b0189364_15081034.jpg 舞台美術家、妹尾河童のエッセイ集。著者の妹尾河童は、80年代に出した本、『河童が覗いたヨーロッパ』で一般社会に名前が広まった(と僕は記憶している)。この本、ヨーロッパの紀行エッセイなんだが、宿泊したホテルの部屋の様子を天井からの俯瞰図で描いていたりして、かなりユニークな本であった。ユニークと言えばこの人の旅のスタイルがまたユニークで、外国語はほとんど喋れないにもかかわらず現地の人とそれなりにコミュニケーションがとれるらしく、そのあたり、当時この本で妹尾河童に接した学生時代の僕も、感じるところが非常に多かった。その後、同様の紀行エッセイが立て続けに出されたが、それだけでなく90年代に自伝的小説である『少年H』が大ヒットしたために一躍著者の名前が知られるようになったのである。
 その著者が紀行エッセイを立て続けに出していた時分に、あちこちで書いたエッセイをテーマごとにまとめた、幕の内弁当のような本を出した。それがこの本である。未確認だが、中には書き下ろしのエッセイもあるようだ。僕は発売時にこの本を買って読んでいるんだが、今回『君は海を見たか』で妹尾河童という名前を見て思い出し、もう一度読んでみようと思い立ったのだった。ただ前に買った本は行方不明(おそらく処分したんだろう)だったため、わざわざ古書を買った。ちなみにこの本、現在すでに絶版状態である。
 著者らしい旅のエッセイも多く、例によってユニークな視点、行動が目を引く。だが僕がこの本で一番印象に残っていたのが、オペラ歌手、藤原義江についてのエッセイで、今回もこれに一番強い印象を受けた。そもそも「妹尾河童」という名前を最初に公式に発表した人も藤原義江ならば、舞台美術家として最初に採用したのも藤原義江である。したがって著者にとって非常なる恩人である。だが著者は結構、(このエッセイによると)失礼なことやエラそうなことを平気でこの人に対して口走っている。しかもそのことをこの藤原義江氏の方も楽しんでいるようなフシがあり、そういう点でもこの人、なかなかの人物であるように見受けられる。著者自身もそう考えているのが明らかで、それが文章の端々に出ていて、この2人の素敵な関係性が読むこちら側にも伝わってくる。
 その他には著者が蝋人形になったいきさつと蝋人形の製作過程の密着や、俯瞰図の描き方などが、本書の目玉と言えるだろうか。いずれにしてもいろいろな断片を寄せ集めたという感じのエッセイ集で、本当に幕の内弁当風。そこら辺は著者も意識しているようで、タイトルにきっちりそれが反映している。そのため中身については、がっちり取り組んで読むというよりつまみ食いみたいな読み方が適していると思える。幕の内弁当というよりもデザート、あるいは駄菓子に近い感じではある。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『少年H(映画)』
竹林軒出張所『君は海を見たか (1)〜(11)(ドラマ)』

by chikurinken | 2019-01-14 07:07 |
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