今年も恒例のベストです。例年どおり「僕が今年見た」という基準であるため、各作品が発表された年もまちまちで、他の人にとってはまったく何の意味もなさないかも知れませんが、個人的な総括ですんで、そのあたりご理解ください。
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今年見た映画ベスト3(70本)
1.
『こんばんは』2.
『普通の人々』3.
『マイマイ新子と千年の魔法』 『ポセイドン・アドベンチャー』、
『プレイス・イン・ザ・ハート』、
『クレイマー、クレイマー』、
『真珠の耳飾りの少女』、
『たそがれ清兵衛』、
『ウンベルトD』なんかも良かったが、見たのは2回目、3回目だし、内容もかなり憶えていたので個人的にはまったく新鮮味がない(今年は古典作品を中心に接していたんでしかたがないんだが)。
同じように『こんばんは』もかつて一度見た映画ではあるが、それでも印象が格別だった。次の『普通の人々』はこれまで見逃していた名画で、今年になって初めて見たのだった。ハリウッド映画らしからぬホーム・ドラマが新鮮である。『マイマイ新子と千年の魔法』は、今年見た片渕須直の3本の中で一番良いと感じた作品。ストーリーに味があったのと、やはり片渕作品らしい美しい映像美が目に付いた。
今年見たドラマ・ベスト3(31本)
1.
『君は海を見たか』2.
『白鯨』3.
『風雲児たち 蘭学革命篇』番外.
『日本の異様な結婚式について』、
『新十郎捕物帖 快刀乱麻 (25)』 こちらも、
『二人の世界』、
『夢千代日記』、
『ボクの就職』、
『ルーツ』などはどれも非常に印象深くて好きなドラマなんだが、そもそもが元々好きな作品ばかりで、こちらも個人的にまったく新鮮味がないので今回は除外。僕にとって新しいものばかりを選んだ。
『君は海を見たか』は、倉本聰絶頂期に自らリメイクした作品で完成度が高い味わい深いドラマ。『白鯨』は、言わずと知れたメルヴィルの代表作のドラマ化作品だが、非常に劇的で、映像技術が駆使された(であろう)シーンは記憶に残る。『風雲児たち 蘭学革命篇』は、『解体新書』成立のいきさつを描いたNHKの歴史再現ドラマだが、あまり扱われることのない素材を巧みにドラマ化していた点が評価に値する。歴史の切り取り方も非常に良かった。
番外は懐かしのラジオドラマ、椎名誠の『日本の異様な結婚式について』と、テレビドラマの音声版『快刀乱麻第25話』で、また聞けると思っていなかったため、感激もひとしお。どちらもYouTubeで公開されていたものだが、個人的にネット映像(音声)のありがたみがよくわかる事例だった。
今年読んだ本ベスト5(74冊)
1.
『百代の過客〈続〉』2.
『百代の過客』3.
『明治天皇〈三〉』4.
『漢字再入門』5.
『カルト宗教信じてました。』番外.
『宇治拾遺物語』 今年の(個人的な)発見はドナルド・キーンの著作である。特に『百代の過客』の正続2編は衝撃であった。日本文学に対する目を見開かされた思いがする。おかげで今年は古典作品に積極的に取り組むようになった。番外の『宇治拾遺物語』も、高校生時代からずっと心に抱いていた作品で、とうとう全編読んだということで感動もひとしおである。内容も非常に印象的でこれから何度も読みたいと思わせる作品である。『明治天皇』もドナルド・キーンの著作で、特に日清戦争から大津事件の描写は、これまでのありきたりな歴史観を覆すミクロ的な視点が充実している。従来の歴史観によるさまざまな思い込みが覆されるような思いがして、こちらも日本史に対する目を見開かされた思いがする。
『漢字再入門』は、漢字を専門にしている学者による一般人向けの著作で、複雑な事情をわかりやすくかみ砕いて紹介しているあたりに好感が持てる。語り口が優しいにもかかわらず、紹介されている内容は目からウロコみたいな事実が目白押しで、こちらも小学生のときからのさまざまな思い込みが覆されるような思いがする。
『カルト宗教信じてました。』は、プロでない人が描いたマンガだが、グレードは非常に高い。何より描かれる対象が宗教団体「エホバの証人」というあたりに価値がある。信者の活動を周囲でよく目にするにもかかわらず、中身についてはあまり知らない団体である。その実態について利益収奪組織(みたいなもの)であると見切っている点も良い。同じ「エホバの証人」の内幕を描いたマンガ(
『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』)もよくできており、あわせて読みたいところである。
今年見たドキュメンタリー・ベスト5(67本)
1.
『五島のトラさん』2.
『ショパン・時の旅人たち』3.
『みんなの学校』4.
『ブレイブ 勇敢なる者』5.
『ノモンハン 責任なき戦い』 今年も日本映画専門チャンネルで秀作ドキュメンタリーが多数放送され、しかも質の高いものが揃っていた。その中で特に優れていたのが『五島のトラさん』と『みんなの学校』。『五島のトラさん』は五島列島に住む一人の頑固親父一家を(なんと)22年に渡って追ったドキュメンタリーで、1つの家族の歴史がこれほど見事に記録されたドキュメントが今まであっただろうかという作品である。お見事というしかない。ドキュメンタリーであるにもかかわらず、フィクションのように心にじんわり染みいる感動巨編である。『みんなの学校』は、こんな小学校が日本に存在するのか、日本の教育も捨てたもんではないなと感じさせてくれるドキュメンタリー。上で取り上げたドキュメンタリー映画、『こんばんは』と共通するテーマで、日本の個々の教育者は草の根でこれだけの頑張りと成果を残しているのだということがわかる。
『ショパン・時の旅人たち』はNHK-BS1の『BS1スペシャル』の枠で放送されたもの。この枠は秀作が多かったが、中でもこれはピカイチのコンクールものである。コンクールものといえば、グレートレースもの同様、ともすればありきたりの作品に落ち着いてしまいがちなのに、登場する参加者の1人(川口成彦)があまりに魅力的だったため、
上質のドキュメンタリーになった。この演奏家自身についても僕は非常に興味を持った(今後の活躍に期待)。『ブレイブ 勇敢なる者』も『BS1スペシャル』枠で放送されたもので、先ほどの小学校と共通するが、日本にこんなに骨のある弁護士がいるのかという点で非常に感心した作品。90分と割合長いドキュメンタリーだったがまったく飽きさせない構成も秀逸だった。
最後の『ノモンハン 責任なき戦い』は、最近とみにグレードが下がっているNHKスペシャルの1本。現在と戦時中に共通する日本社会の特質がうまく表現されていて、そういう点で大変興味深かった。ノモンハン事件自体、取り上げられることが少ない素材である。そういった素材に目を留めて取り上げた製作者の視点がなんと言ってもすばらしい。他に『ETV特集』にも秀作が多かったが、今回は取り上げられなかった。今年は、秀作ドキュメンタリーが非常に多かったという印象がある。こんな時代だからこそ、独自の視点で切り取ったすばらしいドキュメンタリーをあちこちで見せてほしいと感じる。
というところで、今年も終了です。今年も1年、お世話になりました。また来年もときどき立ち寄ってやってください。
ではよいお年をお迎えください。
参考:
竹林軒出張所『2009年ベスト』竹林軒出張所『2010年ベスト』竹林軒出張所『2011年ベスト(映画、ドラマ編)』竹林軒出張所『2011年ベスト(本、ドキュメンタリー編)』竹林軒出張所『原発を知るための本、ドキュメンタリー2011年版』竹林軒出張所『2012年ベスト』竹林軒出張所『2013年ベスト』竹林軒出張所『2014年ベスト』竹林軒出張所『2015年ベスト』竹林軒出張所『2016年ベスト』竹林軒出張所『2017年ベスト』竹林軒出張所『2019年ベスト』竹林軒出張所『2020年ベスト』竹林軒出張所『2021年ベスト』竹林軒出張所『2022年ベスト』竹林軒出張所『2023年ベスト』