ヒトラー・クロニクル
(2018年・独Epoche Media)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
1人の小人物としてのヒトラー
ヒトラーの生誕から1945年の自殺までを、残された映像と写真で辿るドキュメンタリー。
ヒトラーは、幼少時父親に虐待され、学校での成績も良くない上素行も悪かったという。卒業後、美術学校への入学を目指すがこれも失敗し、ホームレスになる。そんなヒトラーの生活を一変させたのが第一次世界大戦で、ヒトラーは一兵卒として従軍することになる。
終戦後無事帰還するが、その後右翼政党、ドイツ労働者党に関係するようになり、演説の巧みさで徐々に党の中で台頭するようになる。党はやがて国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)と改称し、ミュンヘンで反乱を起こす。この反乱は鎮圧されヒトラーは投獄されるが、その間にドイツ国内は経済が大いに乱れ、ヒトラーは出獄後、ナチスともども政治的に台頭してくる。その後、世界中を混乱に陥れたのはご存知の通り。
このドキュメンタリーからは、凡庸な社会的敗北者が少しのきっかけで、世界史を揺るがす独裁者として台頭したことが窺われる。このドキュメンタリーで振り返るヒトラーは、ちょっとした詐欺師のようにしか見えず、その詐欺師が1930年代のドイツで熱狂的な支持を集めたわけである。支持者の熱狂を前にしたヒトラーは神がかり的な存在に映るが、しかしそれ以前のヒトラーの映像や写真からは当然こういった全能感は窺えない。権力者や独裁者を作るのは、時代の空気であるということがよくわかるし、その空気にしても偶然の産物に過ぎないと思える。
誇大に拡大した独裁者のイメージではなく、1人の小人物としてのヒトラーを明るみに出しているという点で、このドキュメンタリーは優れた歴史の記録になっている。その点を大いに評価したい。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『ヒトラー 権力掌握への道 前後編(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『独裁者ヒトラー 演説の魔力(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ヒトラー 最後の日々(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ヒトラーvs.スターリン(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『アフター・ヒトラー 前後編(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀 第1集〜第4集(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『映像の世紀 第5集〜第8集(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『新・映像の世紀 第3集(ドキュメンタリー)』