バブル 終わらない清算 〜山一証券破綻の深層〜
(2018年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル
平成史スクープドキュメント第2回
山一證券破綻騒動から見えてくるもの
1997年に自主廃業した大手証券会社、山一證券の破綻騒動を追体験するドキュメンタリー。当時の山一の幹部や元大蔵官僚なども登場し、当時の事情を語る。
日本中がバブルで踊った90年代初頭、当然のごとく証券会社各社は絶好調だったが、バブルが破綻すると途端に風向きが悪くなる。しかも多くの証券会社では、大口顧客をつなぎ止めておくため、株式投資の赤字分を証券会社が穴埋めするという、いわゆる損失補填を行っていた。これはその後、政府によって禁止されるが、山一證券は密かにこれを続け、しかもこの損失を巧妙に隠蔽していた。いずれ景気が回復し株価が上がればこの損失も相殺できるだろうというのが上層部のハラだったが、彼らが望んでいた夢のような景気回復はいつまで待っても訪れない。やがてこの損失隠しは徐々に明るみに出ることになり、責任を取って当時の執行部が変わったりもしたが、結局(当時護送船団方式という名前で日本の金融機関の指揮を執っていたにもかかわらず)大蔵省は損失隠しの山一を救済することもなく、そのために山一證券は11月24日にあえなく破綻。記者会見の席で、新社長が号泣しながら「社員は悪くありませんから!」などと叫ぶみっともない姿をさらしたのは記憶に新しい。
そういった過程を紹介していくのがこのドキュメンタリーで、(内部関係者の視点は目新しいと言えるが)それほど新しい事実が紹介されるわけではなく、ありきたりな回顧ドキュメンタリーという印象は拭えない。ただ僕にとって非常に面白かったのが、山一證券の上層部、特に社長や会長など責任を持つ権力者連中が、社内の問題の存在を把握しながらそれを先送りにし、悪い情報は持ってくるななどと部下に怒鳴っていたという当たりの話である。トップがこういう態度だと、問題が顕在化しても解決するわけはなく、こういった態度は危機管理へのアプローチとして最悪と言わなければならない。これは無責任・先送り体質の現れであり、昨今日本のあちこちの大企業で続発する不祥事も、こういった体質の結果生じているもので、しかもこの体質、太平洋戦争の時代から全然変わっていない(
竹林軒出張所『ノモンハン 責任なき戦い(ドキュメンタリー)』を参照)。「都合の悪いことはなかったことにし」その上「誰も責任を負わない」悪しき日本の風土は、企業だけでなく行政府内でもいまだに健在、継続中なのである。
そもそもトップに立つということは、その集団のあらゆる責任を負うということである。報酬は責任に対して支払われるものであり、またそういう人々こそが問題を正すための原動力にならなければ問題なんて解決するわけないのだ。山一證券の場合も同様で、下の人間が上に問題解決を働きかけても、上の人間が愚昧であれば握りつぶされるだけだし、下手をすると閑職に追いやられることだってあり得る。そういう意識が無い、単にたまたま出世競争に勝ち抜いただけの愚か者がトップに居座る日本の大企業・官庁のシステムが、こういった集団の問題の原因になっていることが窺われる。過去の失敗(たとえばあの戦争)を鑑みて反省するということをしない傲慢さが、このような問題を生み出しているわけで、いい加減気付けよと思う。愚かなくせに傲慢な人間が、社会の上層部にいまだ多数貼り付いているのが日本社会である。このドキュメンタリーを見ると、そのあたりが見えてきて再確認できるのだった。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『戦後70年 ニッポンの肖像 (2) "バブル"(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『昭和史 1926-1945(本)』竹林軒出張所『ノモンハン 責任なき戦い(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『731部隊の真実(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『日本国債(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『862兆円 借金はこうして膨らんだ(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『日本軍兵士 アジア・太平洋戦争の現実(本)』