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竹林軒出張所

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『三度目の殺人』(映画)

三度目の殺人(2017年・「三度目の殺人」製作委員会)
監督:是枝裕和
脚本:是枝裕和
撮影:瀧本幹也
出演:福山雅治、役所広司、広瀬すず、満島真之介、市川実日子、松岡依都美、蒔田彩珠、橋爪功、斉藤由貴、吉田鋼太郎

死刑制度に対する痛烈な皮肉……
と受け止めた


『三度目の殺人』(映画)_b0189364_18465928.jpg 強盗殺人の容疑で逮捕された容疑者、三隅(役所広司)の弁護を引き受け、何とか死刑を回避しようとする弁護士(福山雅治)が主人公の法廷ミステリー。この弁護士、少し醒めているようで一見それほど熱意を感じさせないんだが、自ら関係者のところに足を運び真相を解明しようとしたりする。そもそもが容疑者の供述が二転三転してなかなか真相が掴めないのだが、ともかくそういう流れでストーリーが進行していく。
 冷淡で事務的な検察官(市川実日子)や少々異常性を感じさせる母親(斉藤由貴)など、リアルさを感じさせるユニークな人物が登場してきて、ドラマ的な(ステレオタイプな)キャラクターがあまり登場しないのは、この映画の大きな魅力の1つである。一方で戯画的なキャラクター(父親役の橋爪功や同僚役の吉田鋼太郎)は存在し、こちらはまた良いアクセントになっている。毎度ながらキャラクター設定が非常にうまいと感じさせる是枝脚本である。
 タイトルがおそらくこの映画のキーになっていて、おそらく死刑のことを指しているのではないかと思うが、あまり言うとネタバレになってしまうので、ここでは触れないようにしなければならぬ。法廷劇は(僕の場合)内容を追いづらくなることが多いが、是枝演出らしく非常に良いテンポで、流れが自然に頭の中に入ってくる。だが、ストーリーはさながら「藪の中」で、最後まで結構モヤモヤが残る。実際のところ何が真相なのかはっきり見えてこない。そのあたりと死刑制度を絡めたテーマなんだろうが、こちらについてもあまり触れることはできない……危ない危ない。終わった後かなり頭の中がモヤモヤするが、これこそがテーマであるならば、それについてどうこういうことはできない。よくできているとしか言えない。
 この映画についても、他の是枝作品同様、なぜだかわからないが流れの悪さなどなく、非常にスムーズに展開されて、見ていて途中でだれることがない。編集や演出の妙なんだろうが、うまいもんである。
第41回日本アカデミー賞最優秀作品賞他受賞
★★★☆

注記:
ネタバレ注意!
 映画もモヤモヤするが、上で書いた文章も(内容に極力触れないようにしたため)かなりモヤモヤしている。そこで、ネタバレ覚悟で、僕なりの解釈と感想をここで書いておこうと思う。まだこの作品を見ようと思うが見ていないという人は、ここは読まない方が良いです。
 容疑者の三隅は、若い頃一度殺人事件を犯していて、今回の事件で二度目の殺人のはずだが、それを考えるとタイトルは少々不可解である。だが結局三隈は死刑判決を受けることになる。しかも真相については結局わからないままで、裁判は「藪の中」の状態で結審してしまう。基本的には自供が唯一の証拠であるが、この自供についても公判の途中で容疑者が否認するため、この唯一の証拠も怪しくなる。「疑わしきは罰せず」の原則で行けば(検察がこれに代わる証拠を提出しない限り)無罪にしなければならない。しかしそれでも裁判所の都合でそのまま裁判が進められ、犯行を誰が行ったのかはっきりとわからないまま(暗示するようなイメージショットはある)、死刑判決が出てしまう。要はこれが製作者の主張する「三度目の殺人」ということではないかというのが僕の解釈である。ストーリーは最後まで「藪の中」であるため、見ている方はかなりモヤモヤした状態が残るが、「藪の中」を表現するのであれば(不快であっても)こうした終わり方をするのが正解だと思う。安易なヒューマニズムでわかったような気にさせるのは面白くないと個人的には思う(竹林軒出張所『羅生門(映画)』を参照)。

参考:
竹林軒出張所『羅生門(映画)』
竹林軒出張所『歩いても 歩いても(映画)』
竹林軒出張所『海よりもまだ深く(映画)』
竹林軒出張所『海街diary(映画)』
竹林軒出張所『ゴーイング マイ ホーム (1)(ドラマ)』
竹林軒出張所『ゴーイング マイ ホーム (2)〜(10)(ドラマ)』
竹林軒出張所『是枝裕和×運命の女優たち(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『ブレイブ 勇敢なる者(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『死刑弁護人(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-12-15 07:46 | 映画
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