カルト宗教信じてました。
「エホバの証人2世」の私が25年間の信仰を捨てた理由
たもさん著
彩図社
「エホバ」の内実が白日の下にさらされる このマンガも、
『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』同様、「エホバの証人」を脱会した元信者の体験談。こちらの方が後発で、どういういきさつで出版されることになったのかわからないが、しかし内容は充実している。「エホバ」の内情が非常に事細かく描かれているため、あの本を読んだ後でも、得るところはあり、読む価値も十分ある。
著者が小学生の頃、著者の母親が入信し、それに伴われて著者も入信させられた。その後は、教義については半信半疑ながらも活動を続ける。そのために学校での活動も制限され、友人もできず、多くの時間を「エホバ」の活動に費やすという生活を送る。その後(「エホバ」信者の)恋人ができるが、周囲から付き合いを辞めさせられる(「エホバ」は男女交際に厳しい)。それでも数年後にその人と結婚するが、結婚しても周囲の「エホバ」信者が何かと干渉し、息苦しいことこの上ない。やがて子どもができて、会の活動はやや消極的になっていく。消極的ながらも「エホバ」の活動を続けていた著者を大きく変えたのが、子どもの難病である。難病の治療に輸血が必要ということになるが、「エホバ」では輸血が禁止されているため、二者択一を迫られることになる。そして、著者によると、そこから「エホバ」に対する疑念が始まる(結局は他の会員には秘密にしたまま輸血の同意書にサインする)。その後、アメリカの元信者による「エホバ」告発の映像に偶然接し、「エホバ」の実態を知るようになって、「エホバ」の真の姿を知った結果、ついに夫と共に脱会することになる。その後も、周囲の信者(母親を含む)からいろいろな圧力を受けるが、本当の自由を獲得する……という話である。
マンガは非常に質が高く、表現はプロレベルであり、処女作とは思えないほどである。このあたりは『よく宗教勧誘に来る人の……』と同様で、そこらのエッセイ・マンガとは一線を画す。途中「エホバ」の集会や活動について詳細に描かれた部分が続くが、これを読み続けるのが非常に苦痛で、とは言ってもこれはマンガの質が低いからというわけではなく、その内容が過酷であるせいである。平気で人の領域にズケズケ入ってきて、彼らの解く「真理」を押し付ける。何か好きなことをしようとしたら、それをやめるよう圧力をかけてくる。戦時中の隣組とかクラス内でのイジメとか、そういうものを思わせる極端な全体主義で、こういうものに接していると(たとえマンガを通じてであっても)はなはだ気分が悪くなるわけだ。しかも会員の行動が「エホバ」に対する反逆行為と見なされると「排斥」され仲間たちから無視されるようになると来ている。その同調圧力の強さは、(同調圧力の強い)この日本社会でも群を抜いたもので、息苦しいったらない。読んでいるだけでそのあたりが伝わってきた……ということは、それはこの著者の表現力に負うところが大きいということなんだろう。著者たちを含む当事者がどれだけ息苦しかったかが、この作品から忍ばれる。
また、信者が「エホバ」の活動のために生活を著しく犠牲にしているという状況も紹介されており、それもかなり新鮮であった。つまり平日から活動を強いられるせいで、多くの信者が仕事にちゃんと就くことができないというのだ。したがって年金などを受けられる立場にないことから年を取ったら必然的に国の世話になる(「エホバ」は面倒見てくれない)。国などの外の世界を「サタン」と排斥していた人々がその世話にならなければ生きていけなくなるということで、マンガの中で語られる「皮肉だよな 今までさんざん滅びると触れ回っていたサタンの世からやしなってもらうんだもんな……」という言葉が響いてくる。こういう現状を教えられると「組織に騙されて収奪されるだけ収奪された人々のなれの果て」というイメージがにわかに湧いてくる。恐ろしい話である。
いずれにしても著者は脱会して普通の生活に戻ったようで、最後は非常に前向きな形で終わる。「エホバ」のような現実否定の後ろ向きな姿勢ではなく、現実を肯定することから始めて、人生を見つめていくことが重要であるというメッセージが直に伝わってきて、煩わしい世界から抜け出せたすがすがしさが(読者にも)心地良く感じる。表紙はあまり良いとは言えないが、非常にすばらしい表現力を持った著者による、佳作のルポルタージュ・マンガである。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『カルト宗教やめました。(本)』竹林軒出張所『決定版 マインド・コントロール(本)』竹林軒出張所『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話(本)』竹林軒出張所『カルトの思い出(本)』竹林軒出張所『“宗教2世”を生きる(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『神の子はつぶやく(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『「カルト宗教」取材したらこうだった(本)』竹林軒出張所『自民党の統一教会汚染(本)』竹林軒出張所『「山上徹也」とは何者だったのか(本)』竹林軒出張所『カルト村で生まれました。(本)』竹林軒出張所『さよなら、カルト村(本)』竹林軒出張所『酔うと化け物になる父がつらい(本)』