キレる私をやめたい
〜夫をグーで殴る妻をやめるまで〜
田房永子著
竹書房
マンガとしてはアレだが
内容は結構深い 表紙を見るとある程度推測できるが、これがプロの画力かと思うような拙い絵のマンガである。エッセイ・マンガだからある程度は目をつぶりたいところだが、しかしこれは今まで僕が読んだ中でも最悪の部類ではなかろうか。こういう読者を軽く見ている(と感じられる)ようなマンガは、基本的にここであまり紹介しないんだが、このマンガは内容(作画以外の部分)に目新しさがあるんで、取り上げることにした。
先ほども言ったようにエッセイ・マンガなんで、自らの身辺を描くというアプローチである。タイトルにあるように、著者はそれまで突然キレて夫をグーで殴るようなヒステリー女性で、しかもそういった自分に嫌悪感を抱いていたんだが、子どもが生まれ、子どもに手をあげそうになった(実際には少々小突いたようだが)ことからあらためて猛省し、キレてしまうことをなんとか止めたいということで、いろいろ方策を探し始めるのである。最終的にゲシュタルト療法に落ち着くんだが、このセラピーに行き着く前にも箱庭セラピーを試したり心療内科などに通ってみたりしたがしっくり来なかった。著者にとっては、ゲシュタルト療法が唯一最高の解決策になったのだった。
ゲシュタルト療法というのは、あまり一般には聴き慣れないが、このマンガから察すると、ロールプレイを交えた一種の認知行動療法のような印象を受ける。どの程度効果があるかについては僕は知らないが、少なくともこの著者については大いに効果を上げたようで、自分がキレる原因、キレるプロセスなどが自分なりによくわかり、腑に落ちたようである。(著者が発見した)そのキレるプロセスやその構造についてもマンガで図解しながら、自分の中の何が原因だったかを紹介しているが、読んでいるこちらはもう一つ腑に落ちない。何となくだが、子どもの頃から母親からいろいろと干渉され否定されてきたことが遠因で、そのために自己肯定感の低い人間になってしまったことが背景になっている……というのは推測できる。自己肯定感が低いため、外部からの刺激(夫の何気ない言葉など)をともすれば攻撃と受け取ってしまい、低い自己肯定意識を守るために攻撃(と自らが解釈したこと)に対して過剰に反応する、それが暴力という形になって表れる、とこういうことではないかと読者であるこちらは推察する。著者はゲシュタルト療法を通じてそういうことに気付いたわけで、それと同時に「休むこと」、「〈今ここにいる〉ことを意識すること」、「自分を褒めること」などを実践するようになって、キレない人間になることができたという、そういう体験談である。
このように内容が非常に興味深く、いろいろと考えさせられる話である。絵は挿絵みたいなものであって、一般的なマンガとはアプローチが違うのだと考えれば、絵の拙さも気にならなくなる。自己肯定感の低い人は周りにもいるし、それぞれで大変なものを背負っているようだが、こういう人と接する際の参考にもなる。もしかして今まで、僕自身が彼らに対してひどいことを言って傷つけていた(そして彼らの自己肯定感の低下を助長していた)のかも知れないなどとも反省してしまう。いずれにしても、本人も周囲もそういった問題点について理解することが、問題解決、そしてさらには関係改善の突破口になる。それについては間違いなさそうだ。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『攻撃性』