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竹林軒出張所

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『写真は小さな声である』(ドキュメンタリー)

写真は小さな声である 〜ユージン・スミスの水俣〜
(2018年・NHK)
NHK-Eテレ ETV特集

水俣でのユージン・スミスの仕事に迫る

b0189364_17123793.jpg 写真集『MINAMATA』で有名な報道写真家、ユージン・スミスにスポットを当てたドキュメンタリー。今年が生誕100周年ということで、ジョニー・デップ主演で映画も作られるらしいが、ETV特集でもいち早く特集した。
 報道写真家としてすでに名をなしていたユージン・スミスは、1970年から水俣湾沿岸の月浦地区(水俣病患者が多数出た地区)に移り住み、患者たちを写真に収め始めた。水俣病の実態を世界に伝えたいという動機からである。同時に当時、日系2世のアイリーン・美緒子と結婚し、通訳や助手は彼女にしてもらっていた。またアイリーン自身も写真を撮影している。ユージンは気さくな性格であるため、地域の人々とも溶け込み、親しく付き合っていく。水俣病被害者の家族とも親しくなり、中でも田中実子さん(当時18歳)がお気に入りで、何度も何度も彼女の家に訪れて写真を数多く撮影している。ただし水俣病の実態を伝えられる写真が撮れなかったということで、実子さんの写真は1枚しか公開していない。
b0189364_17124007.jpg 多くの被害者や家族と知り合い、今でもユージンのことを懐かしむ人がいる一方で、あまり良い思いを持っていない人もいる。それが上村智子さんの家族で、上村智子さんというのは『MINAMATA』でもっとも有名な入浴写真のモデルを務めた被害者である。まさに水俣病の実態を伝えるような写真でインパクトがあるが、あの写真集が発表された後、上村智子さんの家族はいわれのない中傷を受けたりしたそうで、そのためにユージンに対しても良いイメージを持っていないようだ。だがユージンの方も、被害者の写真を撮るに当たって、本当にこれが彼らにとって良いことなのかと自問していたらしい。そのあたりの心情を語った言葉が、アイリーンの手元にある音源に残されている。
 ユージンはその後、水俣病加害者であるチッソの敷地内で、撮影中にチッソが雇ったヤクザ者に暴行を受け、重傷を負ってその後苦しむことになり、それが原因で帰国した。後にあの写真集『MINAMATA』が発表されるが、その数年後、他界する。
 このドキュメンタリーでは、かつてユージンの周囲にいた人々への聴き取りや、残された記録、音源などを使って、彼の人となりや活動などに迫っていく。ドキュメンタリー、それからこの『ETV特集』でもよく使われるオーソドックスな手法で番組が構成されている。実に正攻法な手法であり奇を衒ったところもないので、見ていてくたびれることもないし、非常にわかりやすい。単にユージンの仕事を礼賛するのでもなく、いろいろな人々の気持ちをすくい取って紹介しているのも良い。製作予定になっている映画にも興味が湧くというものである。なおタイトルの「写真は小さな声である」というのは、ユージン・スミスが『MINAMATA』の序文で、写真家としての自身の矜持を表明した文章から取られたものである。それについても最後に紹介されている。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『水俣病 魂の声を聞く(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『日本人は何をめざしてきたのか (3)(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『薬禍の歳月 〜サリドマイド事件・50年〜(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『カメラマン・サワダの戦争(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2018-12-01 07:12 | ドキュメンタリー
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