NYタイムズの100日間
〜トランプ政権とメディアの攻防〜 前編、後編
(2018年・米RADICALMEDIA/MOXIE FIRECRACKER FILMS)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
第四権力のプライド
アメリカの有力新聞、ニューヨーク・タイムズの編集部に密着するドキュメンタリー。原題は『THE FOURTH ESTATE The First 100 Days(第四権力 最初の100日間)』である。邦題の『トランプ政権とメディアの攻防』は、番組のニュアンスをあまり正確に表していないと思う。メディアの攻防というほどのシーンはあまりなく、基本線は新聞社の密着ドキュメンタリーである。
密着する期間は、タイトル通り、トランプが大統領に就任してからの100日間で、史上かつてない破天荒というか非常識な人間が大統領になっただけにいろいろと問題が噴出して、編集部もてんてこ舞いである。中には大統領選前からトランプの担当だった女性記者もいて、大統領選が終わったら解放されて生活に余裕ができると思っていた(下馬評ではヒラリーが圧倒的に有利だったため)ところ、予想外の結末になったためいまだに忙しさから解放されていない。小さい子どもからも始終電話が入るような生活がいまだに続いていて、心身共に疲れ果てている。一方で、トランプはマスメディアを敵視しており、ニューヨーク・タイムズはまさにその標的になっている。ニューヨーク・タイムズの方もトランプとの対決姿勢(というより権力に対する批判的な姿勢)を貫いている。

このドキュメンタリーでは、編集長、編集者、代表などさまざまな関係者の話がふんだんに聴ける上、彼らが締切と戦いながら、日夜激務に追われている様子が映し出される。もちろん激務であっても、編集者の士気は非常に高く、仕事にもプライドが感じられる。映画『大統領の陰謀』に出てくるような編集部の有り様が映し出されて、非常に興味深いところである。
この作品は、何かを告発するというタイプの作品ではなく、むしろ状況をそのまま描いていくというタイプの詩的な要素も持つ作品で、ドキュメンタリーというより映画に近く、元々映画として制作・公開されたのではないかと感じる。そのためにタイトルバックなども割合凝っていて、少しばかり映画風であった。何よりプロデューサーの名前が20人近く出てきたのに驚いた。制作協力している放送局、製作局が多かった(15の団体名が示されていた)せいかも知れないが、指揮系統は一体どうなっていたのか非常に気になるところである(だからと言って完成度が損なわれているというようなこともなかった)。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『“フェイクニュース”を阻止せよ(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ベリングキャット(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『路上のソリスト(映画)』竹林軒出張所『“強欲時代”のスーパースター D・トランプ(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ドナルド・トランプのおかしな世界(ドキュメンタリー)』